〈編集部発〉時代を革新する異文化の出会い
2010.06.01
2010年5月28日、ポーラ化成工業 デザイン研究所所長の碓井健司氏を講師に迎えて、「ポーラでの開発事例を通じた化粧品の容器デザイン開発と今後の動き」をテーマに、第1回「ジェイクルーズ(JCRUISE)」(ジェイパックワールド主催)が神田・一世会館(シャン・ドゥ・ソレイユ)で開催された。
講演では、(1)POLAの歴史(創業期の量り売り?現在まで、ポーラ・オルビスグループ、マルチブランド展開)と(2)ブランドとデザイン(流通チャネルの特性に合わせた化粧品パッケージ)、(3)POLAのブランディングと商品デザイン(企業の提供価値)、(4)デザインフィロソフィー(こだわりのデザイン開発、心を満たすモノ創り、環境対応、デザインスタイリング...伝統と革新)、(5)デザイン開発のプロセスと事例(BAシリーズ)など多岐にわたり、予定時間を30分も超過する内容となった。
「是非、続きて聞かせてほしい」との参加者の声におされるかたちで、時間を超過する結果となったもので、終了後には「非常に参考になった」「こんな濃い内容の講演は初めて」などの感想が寄せられた。特に容器・包装サプライヤーではデザイナーと接する機会が稀少であるとともに、文化土壌が違うためにデザイナーの役割を謝って認識している場合も多い。本誌では、ジェイクルーズを1つの「異文化コミュニケーション」と位置づけている。
◎技術とデザインは表裏一体
話題の"明治維新"を例にとるまでもなく、時代の革新はこうした異文化の出会いによって起るものである。碓井氏は、「技術とデザインは表裏一体です。新しい技術が新しいデザインを生みます。ですから、新しい技術があればどんどん直接ご紹介ください」と、講演の中で声を大にして語った。事実、包装材購入の窓口で情報が止まってしまい、デザインと結び付かないことはママあることのようだ。
また孫子の兵法にあるように「敵を知り己れを知らば、百戦して危うからず」で、顧客のニーズや開発プロセスを知ることが、容器包装での新しい技術開発および提案での大事なポイントとなることは論を待たない。そのことを踏まえて、講演の中で印象に残った幾つかを紹介したい。1つは、営業サイドからは常に定番となる商品づくりが求められるようだが、「どんな定番商品でも、最初は革新的であり、いかに革新的なモノを創るかが大事」と碓井氏は語る。
また、エンドユーザーの環境配慮への意識は確実に浸透しており、高級化粧品といえどもリフィル対応が求められている。化粧品では基本的に付替えが多いようだが、オルビスのような通販商品ではシャンプー・リンスのような詰替えタイプ(スタンディングパウチ)の品ぞろえを始めている。もちろん製品保全の上から、容器を水洗いして、よく乾かしてから詰め替えるように表記してあるとのことだ。講演でも紹介されたが、ポーラでは薄肉ボトルの付替容器をいち早く採用した実績を持つ。それだけに、環境対応への意識は格別に高く、新しい技術を真剣に模索している。
もう1つ興味深かったのは、ポーラが「日本のよいもの」で地域産業の活性化に貢献することを目的とした、伝統技術とのコラボレーションによる「3・9(サンキュー)プロジェクト」の取り組みである。2009年10月3日に創業80周年を記念して、数量限定で発売された「B.A ザ クリーム 江戸切子」(30g、20万7900円)は、江戸切子を初めて化粧容器に採用したものだ。
化粧品の品質維持のため100分の1mm単位での作り込みが求められる。そのため、「吹き」「削り」「磨き」のすべての工程が手作業で行われる江戸切子を採用することは、これまで不可能とされてきたもの。ポーラでは、「日々の生活に美術工芸品を取り入れ、道具として使いこなす"粋"」という新しい価値を提供したいと考え、ブランドカラーをイメージした瑠璃色を採用し、江戸切子伝統の八角籠目文(はっかくかごめもん)や菊繫(きくつなぎ)、文(もん)などの緻密な削りで仕上げられている。
まさに、「技術とデザインは表裏一体」との碓井氏の言葉のままである。求道心の熱い参加者の胸に、何か時代を革新する新しい光が宿ったものと確信する。