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World View

最新のWorld View

今月はインタビューをお休みし、特別編として「WORLD VIEW」を掲載いたします。

 コロナパンデミックの終焉を待たずに、世界を巻き込むようにウクライナでの戦争が勃発した。また日々に詐欺や犯罪、不正やエゴなどによる、気が塞ぐような事件・事故が多発している。「飢渇は大貪より起こり、厄病は愚痴より起こり、合戦は瞋恚より起こる」との如く、心に由来するものばかりである。
 「Such a feelin's comin' over me /There is wonder in most every-thing I see / Not a cloud in the sky / Got the sun in my eyes / And I won't be surprised if it's a dream」とは、誰もが知るカーペンターズが1972年に発表した楽曲「Top of the World」の歌詞である。
 翌73年に米・ビルボードHOT 100で1位を獲得したことでも知られる。最近では、韓国のヒップホップグループのBTSの1位獲得が話題となったが、海外で「SUKIYAKI」の異名で知られる、坂本九の「上を向いて歩こう」(作詞:永六輔、作曲:中村八大)も1位に輝いた楽曲である。
 これらは、まさに心の世界を詠んだ楽曲である。タイトルにもなる「I'm on the top of the world / Lookin' down on creation」とは、心が変われば世界が変わるとの意にも解されよう。いかにして心を変えるのか。心は縁に依って起こり、善き縁に触れることであろう。
 立命館アジア太平洋大学(APU)学長の出口治明氏は、「仕事のヒントを与えてくれたり、仕事の行き詰ったときに新鮮な発想をもたらしてくれるのは、専門分野の知識やデータよりも、異質な世界の歴史や出来事であることが多い」という。誰もが深く頷ける話ではなかろうか。
 戦後初の個人でゼロから立ち上げた独立系の生命保険会社のライフネット生命を、還暦で創業した出口氏の言葉なら尚更である。さらに言葉は「この観点に立てば、人類の知の葛藤から生み出された哲学や宗教を学ぶことは、日常のビジネスの世界にとっても有益となる」とつづく。今回は、出口治明氏の著作「哲学と宗教全史」(ダイヤモンド社)の「おわりに」から一部を紹介する。
 
* * * 
 
哲学者と呼ばれた人たちは、様々な歴史の局面に登場して、世界とは何か、人間の認識とは何か、人間とは何か、生きるとは何かなど懸命に考えては、その果実を論理化してきました。
それに対して、次世代の哲学者は反論したり修正したりしながら、巨人の肩に乗って遠方をみるように、一歩一歩と哲学の道を深め、人智を高めてきました。また、その一方で自然科学の発達が宇宙や地球や人間について、多くのことを解明しました。
さらに脳の科学的な分析や心理学の発達が、人間の脳の働きや認知する能力についても、多くの科学的な解答を導き出してきました。けれども人間は色々なことが分かってきても、相変わらず失恋したり殴り合いをしたり、数千年以前と同様の人生を送っています。
そういう普通の人々にとって、地球の寿命が分かり人類の誕生と滅亡に至る過程まで分ってしまったことは、果たして幸福なのでしょうか。不幸なのでしょうか。人類が宇宙に飛行し、月面にも着陸する時代です。
「地球は青かった」というユーリィ・ガガーリンの言葉は、人類が初めて自分の星を宇宙から見て発した感慨です。それから多くの人々が宇宙に行きました。注目したいことが一つあります。アメリカの宇宙飛行士のなかで、地球に帰還したあとに、宗教の道に入る人が少なからず存在することです。
宇宙飛行士は、自分の生まれた地球を宇宙から眺めました。宇宙とは中世までは神の領域の世界でした。その宇宙から自分が生まれ育ってきた青い星を遠望することは、人間に何を考えさせるのか。それは人それぞれだとは思います。
けれども多かれ少なかれ、生きるということについて思いを巡らすことになると思うのです。その万が一にも宇宙ステーションが故障すれば、自分自身が星のかけらに還ってしまう環境にいることも、肌身に感じているのではないでしょうか。
宇宙飛行士のなかからもう一度、神について考えようとする人が出てくるのは、必然的のようにも思われます。AIの発達も含め、文明の最先端に位置する国はアメリカです。そのアメリカでヨーガ(瑜伽)の見直しも含めて、大変多くの新興宗教が生まれています。それはなぜなのでしょうか。
次のようなことを考えてみました。「世界とは?」「人間とは?」、そのようなことを一所懸命に考えていた時代に、天国と地獄が生まれました。でも今は天国と地獄の代わりに、星のかけらから生まれ、地球の水が枯れ果てたときに人類は必ず絶滅する、という知見があります。
どちらの方が楽しいか、と問うのはほとんど無意味なことです。それは人間の脳みそと人工知能と、どちらを採るかと問うような技術論になっているからです。どちらの説を採っても、等身大の人間が生きて病気になって老いて死んでいく、そのような事実については何も解決してくれないのです。
宇宙飛行士が宗教の扉を叩き、最先端の文明国で新興宗教が急増しているのは、はるかな巨人の高さにまで大きく成長した科学や哲学とは無縁に生きてきた普通の人たちの、生きる支えを探すための正直で切実な行動ではないでしょうか。
「本質主義」という考え方があります。すべての事物には変化しない核心部分である本質が存在する、という考え方です。超自然的な原理の存在を認める立場です。プラトンのイデア論も本質主義的な考え方です。そして、この考え方は、構造主義を強く否定している思想です。
ところが、構造主義と本質主義の間に、本当の学問的な意味での決着はまだついていません。決着がつきにくいのです。本質主義的な立場から、オーストリアの教育者であり、神秘思想家でもあったルドルフ・シュタイナー(1861〜1925)は、人間の霊的な能力の存在を認めた上で、独自の教育理論を確立しました。
そして、その理論により、初等・中等および職業教育を行う総合学校を設立しました。その学校は今日でも、世界に900校以上存在しています。また、人間が本来もっている才能を子どもたちから引き出そうとして、シュタイナーほど特殊な方法ではなくても、数多くの教育者が様々に工夫し努力している現実が存在します。
人間の秘められた才能であるとか、世界が本来もっている本質的な価値であるとか、それらの存在を密かに認め、それを具体化しようとする努力は、今も世界の様々な分野で行われているのです。
すでに自然科学も脳科学も、そして構造主義の論理も、人間の意識は自分たちの存在する社会のコピーであって、自由な人間の意思など存在しないと断言している時代です。それでも多くの人々は密かにつぶやいているのだと思います。「そんなことは信じたくないよ」と。
刑法では、今でも過失と故意の2つに分けて、刑罰の基準を定めています。しかし、人間の主体的な自由意志の存在は、ありえないと考えられている時代です。それでも刑法では「過って」とか「意図的に」とは、犯罪行為を自由意志の存在を前提に峻別するという虚構の上に、その体系を構築しています。
それは自由意志の存在を認めない場合に、犯罪をいかに裁けばいいのか、その知恵がまだつくられていないからだと思います。人間が自由意志をもっていると考えた方が分かりやすいからでもあります。
結局、現在の人間社会は構造主義や自然科学、そして脳科学が到達した人間存在についての真実よりも、むかしから主流であった本質主義的な概念、平たくいえば日常的な概念を上手に利用して虚構に立脚した上で、社会秩序を保っています。それは人間の生きる知恵なのだと思います。

出口治明(でぐち はるあき)
1948年、三重県美杉村生れ。三重県立上野高等学校を卒業し、京都大学法学部を入学、卒業後に日本生命保険相互会社に入社。企画部や財務企画部で経営企画を担当、ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006年に退職。同年にネットライフ企画(現ライフネット生命保険)を設立し、代表取締役社長に就任。2017年に会長職を退任し、2018年より立命館アジア太平洋大学学長。著書に「人生を面白くする 本物の教養」や「仕事に効く教養としての『世界史』」「全世界史(上・下)」などがある。