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パッケージは生活改善をうながす「人への投資」

相変わらず、永田町では不人気な総理ではあるが、「地方こそ成長の主役」とした「コストカット型経済から高付加価値創出型経済」へのシフトを標榜する石破茂氏に共感をもてない人はいるだろうか。2024年春に33年ぶりの高水準となった賃上げをテコに、いま日本経済の好転を図らぬ手はあるまい。
そこで、好転のカギを握るのはやはり「人」であり、「人への投資」である。過去30年の長きにわたり、日本は「人への投資」を重視してこなかったといった見方もあるが、果たして数十年ばかりに止まる「性向」であろうか。戦後日本(大正・昭和)ばかりか、明治維新まで立ち戻れぬとはいえない。
むしろ百数十年にわたる、欧米文化の直訳や輸入ででき上がってきた浅はかな成功(弊害)ではなかったか。確かに、その間には真の成功や功績もあったに違いないが、(それらを残すためにも)これら弊害の原因を深く掘り下げ、根底から見直さなければならないときである。
単に「デフレ下のコストカット要請と終身雇用制度の狭間で、企業は人件費や教育研修費を抑え、また非正規社員の割合を高めざるを得ず、結果として人的資本投資はOECD加盟国中で最低レベル」「労働力の希少性の高まるなか働きやすい環境を用意し、正確な評価の下で相応なる処遇がなければ企業の存続は危ぶまれる」といった程度に甘んじていてはならない。
それでは、これまで同様に、ただやみくもに枝葉末節に手を入れ、外見的な体裁を整えるだけでその場を取り繕うことになりかねない。いずれまたさらに大きな困難に直面するだけのことである。現在は政治も経済も社会も、また道徳や生活さえもいき詰まっている。
その病根はすべて人材の欠乏にあるがゆえに、そのための「人への投資」でなければならない。まず生活を改善し将来の禍根を除去する必要性を自覚して、単に物質面からの部分的な改善に止まらず、根本となる生活のあり方の立て直しから始めるべきであろう。
その意味で、今回は故・樹木希林さんの遺された語録集「樹木希林120の遺言」(宝島社)のなかから、「『人』――人間と世間について」の語録をいくつか紹介する。そのまえがきには、養老孟司さんが番組収録ではじめて希林さんと会ったときの印象を踏まえ、「与えられた能力を精一杯駆使して生き、でも余裕をもって人生を送り、おかげで十分に成熟した人でなければ、語れない内容である」と記されている。
 
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たとえば、映画の宣伝で、こういえ、こういえって、いわれるの。「やり残したことはありませんか?」なんていうの。だけど、(やり残したことは)私は別にないわよ、って。でも、じゃあ、あるといえば果てしなくあるんですよ、人間っていうのはね。だから、そういう意味では気楽ながん患者ですよね。
むかしから本を読むと、およそ、同じことをいっている。自殺した魂は、生きていたときの苦しみどころじゃないそうだ。本当かどうかは、分からないけど信用している。私は弱い人間だから、自分で命を絶つことだけは止めようと、生きてきた。こんな姿になっておもしろいじゃない。
よく子どものころ、三十歳の人をみると、ああこんな歳になると、ずいぶんと分別もできるんだろうと思うじゃない。ところが、自分が三十になってみると、子どものときと同じ感情なのね。モノを欲しがったり、人をうらやましがったり、すべて。
それじゃ、自分が七十ぐらいの歳の役をやる場合、これこそバアさんと思ってやっちゃいけないと思ったの。今の自分の歳でやりゃいい、自分の好みで...と思ったのよ。
それで寺内さんの役をやってて痛切に思うことは、世のなかのババアこそ革命を起こせる唯一の存在ってこと。男は、結局、社会的な名誉だとか栄光だとかいうものがなくっちゃ生きていかれないのね。その点、女はただ生きていかれるというバイタリティが本能的にある。だから、ゴキブリと同じで、バアさんが世のなかで一番強いと思うの。男には革命を起こそうというロマンがあるだけですよ。
私は二十代のころ、人生に飽きちゃったことがありました。この先まだ何十年も生きなきゃいけないの、って。そのころに出会った、どうにも反りの合わない夫(ロック歌手の内田裕也さん)の存在が、私の重しになりました。
ああいう夫がいなければ、私みたいな人間は野放図になったり、かと思えば、どっと落ち込んだりして、どうなっていたか分かりません。夫がいてくれたお陰で、飽きる暇がなかった。そういうふうにやって来られたことが、ありがたかったと思っています。
人からみたら大変なアクシデントでも、私にとってはすべて必要なことだったんですね。向こうは迷惑だったのかもしれないけど(笑)。どの夫婦も、夫婦となる縁があったということは、相手のマイナス部分が必ず自分のなかにもあるんですよ。
それが分かってくると、結婚というものに納得がいくのではないでしょうか。ときどき、夫や妻のことを悪くいっている人をみると、「この人、自分のことをいってる」と、心のなかで思っています(笑)。
向き合うから欠点が全部見えてくるわけね。普通は、あーあ、なんでこんな人と一緒になったんだろうなと思うと嫌いになるわよね。向こうもそう思ってるのね。だから、これが向こうへ、目的に向かっていくのがやっぱりいいんじゃない。
あんまり子どもの方に目を向けると子どもも疲れるみたいだから、もっとこう、もっと世のなかの自分たち夫婦で何か参加できることだとか、何か探してください。そこまでは私もよく分からない。(中略)欠点はあって当たり前なんだから、夫が嫌いですっていったら、その分だけ、あなたも嫌われてますよ(笑)。
自分で壁をつくって閉じこもっている若い人は一杯いる。自由に生きていいのに、自分で生きにくくしている、その贅沢さ。壁なんかないのにね。それが伝われば、この役を演じた意味はあったかな。
1930年代に、国は療養所に強制収容して患者を根絶する「無らい県運動」を進めて、密告を奨励したのよね。そのとき、普通の人たちが自分を守るために彼らを差し出した、いや、誰かを責めるつもりはないのよ。ただ、風評を膨らませたり、流れを強めたりするのは結局、私たちなのよ。隣近所の目と耳を気にして。
でも、その目となり耳となっているのもまた、一人ひとりの「私」。だから、自分はどうなんだって自分を疑ってみることも、ときには必要じゃないかしら。思うのは、自分の弱さを知っていること。それを知っておくだけでもムダじゃない。息苦しい時代に入りつつあるから、余計にそう思うのかしらね。
私は人間でも一回、ダメになった人が好きなんですね。たとえば事件に巻き込まれてダメになった人というと言葉はおかしいけれども、一回ある意味の底辺をみたというのかな。そういう人は痛みを知っているんですね。だから、色々な話ができると同時に、またそこから変化できるんです。
私はこういう性格だから、自分が食いっぱぐれると思っていたんです。それで大家をやろうと。そうすれば食いっぱぐれないだろうと。誰も手助けのしようもないところまで落っこちちゃうと芥川の「蜘蛛の糸」になっちゃうでしょ。
好きなことをやりたいのなら、まずは自分の性格を俯瞰してみて、自分がどういう人間かを承知して、手を打っておかないと。そういうふうに考えますね、私はね。あなたより生きることに執着があるんですよ。だって風呂無しは嫌だもの(笑)。

樹木希林(きき きりん)
本名・内田啓子。1943年1月15日、東京都生まれ。1961年に千代田女学園を卒業、文学座研究所1期生となり、「悠木千帆」名義で女優活動をスタート。1970年代にテレビドラマ「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」「ムー」「ムー一族」などに出演し人気を博す。2000年代以降は映画に活躍の場を広げ、「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」(2007年)、「わが母の記」(2012年)で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞。2008年に紫綬褒章、2014年に旭日小綬章。2018年9月15日に享年75歳で逝去。