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World View

自然の観察力と自分の感覚を使うという包装技術

今月はインタビューをお休みし、特別編として「WORLD VIEW」を掲載いたします。

 いまだ新型コロナウイルス感染拡大の波は止まず、ウクライナでは戦争がつづくなか、広島と長崎で被爆77年目となる「原爆の日」を迎えた。広島市の原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式であいさつに立たれた湯崎英彦知事は、メッセージの最後をこう結ばれている。
 「地球温暖化は200年、パンデミックは2年超かけて、人類の持続可能性に疑義を突きつけました。核兵器は、誰かがボタンを押せば、人類の持続可能性は30分かもしれません。核兵器廃絶は、人類の持続可能性のために最も喫緊の課題であることを認識し、最後の核弾頭が解体・破壊され、この地球上から核兵器が完全になくなるまで休むことなく、全力を尽くすことをあらためてここに誓い、平和へのメッセージといたします」と。
 湯崎知事は「核兵器廃絶は、人類の持続可能性のための最も喫緊の課題」との認識を促したわけだが、当然のこと核兵器廃絶は人類の持続可能性だけに止まる問題ではない。全ての生物および無生物、地球そのものの持続可能性にもおよぶ重大な問題である。
 だが、今なおウクライナでつづけている戦争は、全ての持続可能性を無視し、果ては核兵器の使用に至らないと限らない危機である。すでに多大な命と生きる糧とが失われ、人道は踏みにじられ、自由と人権は限りなく制限され、地球環境は破壊され、CO2を大量に生み出し温暖化を進めている。
 それは地球の持続可能性を無視どころか、逆行する暴挙でしかない。こうした危機を危機だけで終わらせず、そこから立ち上がって新たな時代を切り開くことに人間の真価はある。ゲイブ・ブラウン氏は「自然は何十億年もの間、常にリジェネラティブでありつづけてきた」と、リジェネラティブ農業(環境再生型農業)を農場経営者として実践する。
 ただ農業経営の初期には破滅的な4年間を経験し、「支え合う人と神への信頼は極めて重要な存在」とし、聖書の箴言(3章5節-6節)「心のかぎり、神を信じよ。そして自分自身の考えによりかかるな。一歩ごとに神を思え。そうすれば、神は道を真っ直ぐに整えてくださるだろう」を紹介する。
 今回は、そのゲイブ・ブラウン氏の著書「土を育てる―自然をよみがえらせる土壌革命」(服部雄一郎訳、NHK出版)から、その一部を紹介したい。
 
* * *
 
 私は農業さえできればよかった人間だ。よもや世界を旅して回り、土の話を伝えて過ごすことなど望んでいなかった。でも、今はそれが仕事になっている。きっと神は、地球環境の回復のささやかな手伝いをさせるために、シェリーと私にあの破滅的な4年間をくぐらせたに違いない。
 だって、この確立を考えてみてほしい――近所の農家は誰一人4年連続の被害など受けていないのに、うちだけが雹と干ばつで4年すべての作物を失うことになったのだ。
 前向きに学ぶ姿勢をもつこと。いったいどれほどの人間にいわれたことか――「まったく分っていないな、ゲイブ。そんなことできやしない。ムリだ」。それは彼らの視点に過ぎない。私の視点から見れば、彼らは学ぶ準備ができていないだけ。
 「できると思えばできるし、できないと思えばできない」とはヘンリー・フォードの名言だ。私の講演に参加する人の大半は、こちらが口を開きもしないうちから、すでに心が決まってしまっている。私が有利だったのは、町育ちで、農場に生まれ育たなかったこと。
 農家になったとき、自分には先入観というものが一つもなかった。開かれた心をもち、学ぶ準備があった。残念ながら、最初は従来型のモデルを学んだので、一度すべてを捨てて、学び直さなければならなかった。ドン・キャンベルが教えてくれた言葉を思い出そう――「小さな変化を生み出したいなら、やり方を変えればいい。大きな変化を生み出したいなら、見方を変えなければ」。
 聖書の「ヨブ記」(12章7節-8節)にこんな言葉がある――「獣たちに訊け、彼らは教えてくれるだろう。そして、空の鳥たちに。彼らは告げるだろう。地にも問うてみるがいい。きっと教えてくれる。海の魚たちにも語らせてみよ」。
 あの壊滅的な4年間、私は牧草地や畑を歩いて過ごす時間に大いなる癒しを得た。そして、観察することを学んだ。夏のそよ風に漂うクローバーの甘い香り。牛が草を食むやさしい葉ずれの音。草を口にする前に、牛たちがまず、ひげで草に触れていることに気づくだろうか。
 バッタに目を向ける。なぜアザミばかり食べていると思う――栄養が高すぎる草は消化できないからだ。土をひと掴み手にとってみる。団粒構造になっているだろうか。なぜツンと匂うのだろう――これは放線菌の匂い。土に菌がたくさんいる証拠だ。
 畑にシャベルをもっていこう。土にスムーズに食い込むだろうか。オーツ麦の根が水平に広がっている――それは大昔に耕耘機を入れたせいで、土が水や根を通さなくなっているからだ。タンポポがたくさん見える――土にカルシウムが不足し、カリウムが多いかもしれない。
 みな自分の感覚を使うという技術を忘れ去っている。すぐに利益を出そうという強迫観念で、自然との繋がりがどんどん消えている。繋がりが消え、私たちの土地の上での存在感も著しく希薄になっている。義父の横で働いた8年間、私は義父がシャベルを土に差し込んで、掘り起こした土をじっくりと見るところを一度たりとも目にすることはなかった。
 大学で農業を勉強した4年間、どの教授からも、ただの一度たりとも「観察しろ」といわれることはなかった(どう観察すべきか教わらなかったのはいうまでもない)。そして、観察力なくして、"自然に近い農業"などできようはずがない。
 ヘンリー・フォードはいった――「失敗とは、次にもっと賢くやり直すためのチャンスにすぎない」。過去の失敗の数々については本を何冊もかけるくらいだ。どういうわけか、私はなんでも二度失敗して、毎回のように苦しい思いをしなければならない人間だったのだ。
 でも、私はそれらの失敗から学んだ。それこそが大切なことだった。たとえばかつて私は、カバークロップの下地をつくらずに、痩せた土にそのまま多年草を播いた。あんな間違いはもうしない。今は、多年草を播く前には、必ず2年以上カバークロップを植えるようにしている。
 農場に見学に来た人たちにはよく「毎年わざといくつか失敗するようにしているんだ」と話す。たとえば、特定の種類のカバークロップがうちの農場で上手く育つかどうかは、実際に植えてみずにどうやって分かるはずがあろう。全部損する結果になるかもしれないけれど、ほかにどうやって学べよう。
 うちの農場が今これほどよい状態にあるのは、過去の失敗のおかげなのだ。環境活動家で作家のウェンデル・ベリーは「揺らぐアメリカ」(The Unsettling of America)のなかでこう書いている――「生きている間、私たちの身体は地球上の動く粒子で、土壌やほかの生物の身体と不可分に結びついている。だから、私たちの身体の扱いと、地球の扱いの間に深い類似があるとしても、別段驚くには及ばない」。
 私たちは、自分自身が身を置く社会・環境・信仰の背景について理解する必要がある。詰まるところ、私たちは自分たちが行う一つひとつのことが、複合的で雪だるま式の作用をもつことを理解しなければならない。耕耘機、化学肥料、農薬、殺菌剤、殺虫剤、ワクチンそのほか、混乱をつくり出すものを使えば、土、水、空気、社会をふくむすべての生態系を損なうことになってしまう。私たちは何一つ単独でやっているわけではない。

ゲイブ・ブラウン
農場経営者。リジェネラティブ農業の第一人者で、米ノースダコタ州で2000haの農場・牧場を妻と息子の家族3人で営む。化学肥料や農薬を使わない不耕起栽培で自然の生態系を回復させる新たな農業を確立。農場には国内外から毎年数千人の見学者が訪れる。米・不耕起栽培者賞、天然資源保護協議会から成長グリーン賞を受賞。

服部雄一郎(訳者)
翻訳家。2014年から高知でサステイナブルな暮らしを実践。「ゼロウェイスト」「プラスチック・フリー」の実践的な取り組み、循環や持続可能性を意識した暮らし方が注目を集める。訳書に「ゼロ・ウェイスト・ホーム」(アノニマ・スタジオ)、「プラスチック・フリー生活」(NHK出版)、「ギフトエコノミー」(青土社)など。