• ニュースフラッシュ
  • ワールドビュー
  • 製品情報
  • 包装関連主要企業
  • 包装未来宣言2020

トップページ > World View

World View

日本復興の最大のカギは「人間の探求」

DAG KLINGSTEDT(ダーグ・クリングステット)

ERGONOMIDESIGN/Managing Director Japan
 
プロフィール?ダーグ・クリングステット
1959年9月6日にスウェーデン・ノールショで生まれ。ストックホルム大学東アジア研究学部(日本語日本学専攻)を卒業。1984年にカンジナビア最大手の家電、自動車雑誌の日本特派員。1991年に在日スウェーデン大使館(二等書記官)。1993年に日本(東京)、スウェーデン(ストックホルム)でコンサルタント会社ジャパンダイレクト運営、スウェーデン貿易公団、エータック(スカンジナビア最大の障害者用機器メーカー)他のアドバイザーを務める。2000年にIFSジャパン株式会社パートナー開発マネージャー、ラディックス株式会社取締役。2001年にエルゴノミデザイン社日本駐在員事務所設立。2002年9月にエルゴノミデザインジャパン株式会社設立。2009年11月にKOY株式会社設立。

----- 本誌では、これまでも度々触れてきましたが、創刊の経緯を振り返ってもスウェーデンとは"不思議な縁"があり、一方ならず親しみを感じています。その意味でもこれからは、親しみを込めてダーグさんと呼ばせていただきます。ダーグさんは現在、北欧最大の工業デザイン・コンサルタント会社であるERGONOMIDESIGN社の日本でのManaging Directorを務められていますが、来日してからもう30年近くになるということですね。
 
クリングステット氏) "クリングステット"という発音が難しいこともあり、日本の友人はやはり"ダーグ"と呼んでいます。若い世代の日本人の方と話す時は、「私の方が日本に長くいます」とよく冗談を言います(笑)。
 
----- その点、日本人以上に日本のことをよく理解されていますね。またそれ以上に、ダーグさんからは日本を愛する気持ちが伝わってきます。ですから今回は、ERGONOMIDESIGN社のManaging Directorとしてではなく、むしろダーグさん個人として日本について感じるところを中心にお聞かせください。この機会も、スウェーデンとの"不思議な縁"に連なったものだと感じており、何よりもタイミングである「時」に意味があると思っています。本誌では、大震災後の日本のゆくえ(変化)といったものをパッケージといった視点から考えているところです。
 
クリングステット氏) 私も、日本にいて大震災を経験した1人です。いうまでもなくスウェーデン人には地震への耐性はありません。これまでの経験から、少しは慣れたつもりでしたが、これでやっと「私も日本人になれた」と思います(笑)。貴誌では"震災ショック"と称して、日本での価値観の転換が進むキッカケとなると考えているようですね。確かに、私自身もそれくらいのショックを受けました。にわかに表われた節電意識などはその1つの証左でしょう。ただ、震災後に表われる現象はけっして善い面だけではありません。埋立地で見られた液状化の現象にも似て、これまで省みられなかった様々な問題が一気に噴出しているように感じています。「日本がこのまま衰微していく姿を見るのは堪えられない」といった思いに駆られることもあります。
 
----- それだけ思い入れが深く、日本の善さをよく理解してくださっているということでしょう。日本の古典に眠る「何ぞ衰微を見て、心情の哀惜を起さざらんや」との言葉を思い出します。また「瞋恚(しんに)は善悪に通ずる」といった言葉もあり、善きにつけ、悪しきつけ表われてくる変化の現象が、まさしく価値観の転換が進んでいるとの証左であると思っています。
 大切なのは、ダーグさんのように"衰微"を感じて"心情の哀惜"を起すことであり、それが"復興"という新たな建設のスタートを切る原動力となるからです。誤解を恐れずいえば、それこそが未曾有の震災経験の意味と言えるのではないでしょうか。地下プレートを揺らす巨大なエネルギーを生かすも殺すも所詮、人の力用に依るとは言えないでしょうか。
 
クリングステット氏) ご承知のように、ERGONOMI DESIGNの社名は英語の「Ergono-mics(人間工学)」に由来します。人間工学をベースにした工業デザインの会社ですが、企業理念として"武器"だけは手掛けていません。ただ皮肉なことに、武器は人間工学が100%生かされている希少な工業製品といえます。その武器の善悪はおくとして、貴誌が指摘するように物事を生かすも殺すも人に依るところは大きい。けっして人間工学でなければならないという意味ではなく、何事においても焦点となるのは"人間"だと思います。また、そのことを真摯に探究していかなければなりません。スウェーデンの工芸品や家具などがデザインを変えないことで評価されますが、そこには人間工学の視点があるからだと思います。なぜなら、人間そのものはそれほど変化していないからです。
 
----- ダーグさんは以前、「日本は、工業デザインではだいぶ遅れをとっていますが、パッケージデザインはまだ世界をリードしています」と話してくれました。"人間"といった古くて新しいテーマに、そうした理由があるように思います。殊に震災を契機に、"経済主体"から"人間主体"への転換を指摘する声も聞かれます。
 本誌が知るスウェーデンとも通底する日本の魅力はむしろ、この"人間"へのフォーカスにあるように思っています。震災により噴出するマイナス面は、経済成長にかまけて人間という視座を見失い、蔑ろにしてきた結果であると思います。ダーグさんの言われた「人間の探求」で、思い出すドイツの哲学者であるイマヌエル・カントの言葉があります。それは「実践理性批判」(波多野精一・宮本和吉訳、岩波文庫)の中の「それを考えることしばしばにして、かつ長ければ長いほど益々新たにしてかつ増大してくる感嘆と崇高とをもって心を充たすものが2つある。それはわが上なる星の輝く空とわが内なる道徳的法則とである」です。
 
クリングステット氏) 人間の探求とはつまり自らを省みることでもあり、そこに自然とも通底した何かを感じても不思議ではありません。内省的な性格だけでなく、自然とともに生きる中で培ってきた感性といったことは、非常に日本人と共通していると思います。長くいればいるほど、日本人および日本の良さといったことが手に取るように分かってきます。大震災ではその一端が、世界から称賛を集めたことはいうまでもありません。
 それだけに、日本中に埋もれたままの貴重な財産を、瓦礫処理とともに廃棄されては"もったいない"と思います。それ以上に、日本人としての独自DNAである豊かな感性に自信を持ってほしいと思います。海外は日本以上に日本を評価しています。経済でのマイナス要因として、人口減少をともなった少子高齢化や単身世帯の増加などがクローズアップされていますね。
 かつてスウェーデンも同じような経験をしており、それを契機として政治・経済・社会での大きな変革を進め、今のスウェーデンが生まれたといっても過言ではありません。例えばスウェーデンでの輸出額はGDPの半分近くを占めていますが、日本ではわずか十数%に過ぎません。貴誌がご指摘の"震災ショック"に大きな期待を寄せています。ピンチをチャンスにするのも、人間の力用ですからね。