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「包装開発とは顧客の創造である」という思想
※今月はインタビューをお休みし、特別編として「WORLD VIEW」を掲載いたします。
いつも手もとに置く本がある。創刊時に知人から、「しっかりと勉強してください」との温かい励ましの言葉とともにいただいた「一倉定の経営心得」(日本経営合理化協会出版局)である。いただくまでは、その名前を知らなかった。すでに1999年3月に亡くなられており、本誌同様に知らない人も多いかと思い、末尾に同書に記された一倉定氏の紹介を付しておく。
少し古いが、岩崎夏海氏の著書「もしドラ」(ダイヤモンド社)の影響もあってか、どこの書店にもピーター・ドラッガー氏の本が平積みされている。これまで傾倒したことはなく、安易な言葉は避けたいところだが、現今のドラッガー氏への人気の要素は何となく分る。同じ人気の要素を持つ日本人であれば、迷わず松下幸之助氏を挙げるだろう。
「それならば」と本誌は、一倉定氏を挙げても全く見劣りしないと思う。著書ならば「読み劣りしない」となるところだが、そこに"一倉定らしさ"が加わり、読み応えでは上回っていると思うほどである。そこで、今回の「world view」は日本人の言葉を紹介することになるが、「ドラッガー何するものぞ!」と読んでもらいたい。ちょっと耳が痛いかもしれないが、ご了承ください。
会社の支配者
会社というものは、その会社の商品がお客様に売れて、はじめて経営が成り立つという、何とも当り前のことを、私は絶えず叫び続けている。わが社の技術を第一に考える。社員の管理が最も大切だと思いこんでいる。同業者間の牽制に憂き身をついやす。能率とコストと品質だけで経営がうまくいくと信じている。
自分の好みをお客様に押しつけようとしている。そして、それらの会社の業績は決して芳しいものではないことを、私は自分の経験から知っている。当り前である。会社の収益はお客様によって得られるのであり、そのお客様は、自分の要求に合わない商品は買わない。たとえ一度は買っても、二度と買おうとはしないのだ。
直接目に見えないお客様こそ、会社の本当の支配者である。命令はしないけれど、自分の意にそわない時には「無警告首切り」をやる。つまり、だまって、その会社の商品を買わない、ということである。たまに、クレームをつけるお客様がある。このようなお客様こそ、本当に有り難いお客様である。「お前の会社は、そんなことしていたらつぶれるぞ」という警告を発してくれる人だからである。
何も命令せず、過去の業績は一切認めてくれないお客様を、しっかりとつかまえ、さらに新しいお客様をつくりあげてゆくこと。これが企業の生きる道であり経営なのである。ここに、経営とは顧客の創造であるという思想が生まれるのである。
事業の成果
合理化、能率、品質というようなものは、それ自体は結構なことではあるが、それは内部管理の優秀さの実証であっても、必ずしも優秀企業の実証であるとは限らない。商品の収益性が低かったり、販売力が弱くては、優れた業績は期待できない。企業存続に必要な収益を手に入れることによってのみ会社は生き続けることができるのである。
収益は、ただ一生懸命努力することによって得られるのではなくて、商品が売れることによってのみ手に入れることができるのである。収益は会社の内部にはない。内部にあるのは費用だけである。収益は外部にあるのだ。つまりお客様のところにあるのだ。それは、お客様の要求を満たすことによってのみ手に入れることができるのであって、他のいかなる手段によっても手に入れることは不可能なのである。
経営戦略とは
孫子の戦略の定義を経営に当てはめてみると、それは「高収益型事業構造」のことである。しかも、「自然に高収益が上がるような」事業構造でなければならない。事業は、永久に存続しなければならないという至上命令を背負っている。そのためには存続に必要な利益を確保しなければならない。経営戦略は常に先手をとることによって大きな効果を発揮する。
しかもその戦略は、そのごとく一部を除いて敵はなかなか気づないし、気づかれても反撃が難しい場合が多い、という敵に安全度の高いものである。その上、状況の変化に対応することもやさしいのである。だから戦略のあるなしでは、長期的に大きな差がつくものである。
集中の原理
企業の持っている資源(人・物・金・時間)は有限である。それにひきかえ、お客様の要求は無限である。だから、どんなマンモス企業であろうとも、お客様の要求を全て満たすことは、初めからできない相談である。お客様の全ての要求を満たそうとすると、全ての要求が満たせなくなってしまうのである。
とすると、有限の資源しか持っていない企業のあり方は自然にきまってくる。それは、お客様の要求の特定の部分に限定しその中でお客様の多様な要求を満たす、ということである。お客様の要求の特定の部分に事業を絞り、これにわが社の資源と努力を集中することである。これが集中の原理である。
最も優れた社員教育
環境整備は、これを行った人々の心に革命をもたらす。「いかなる社員教育も、どんな道徳教育も、足下にも及ばないものだ」というのが私自身でイヤという程思い知らされていることである。しかも、ただ一社の例外もないのである。社運の隆盛は、運というよりも、自らの努力で勝ち取るものである、というのが私の持論だが、それは、まず環境整備から始めるべきである。
武芸でも芸事でも、大工でも左官でも丁稚小僧でも、いやしくも、それが大切なことである限り、水くみ、薪割りなどとならんで、修行の第一歩は常に「掃除」だった。昔の人は、この掃除がいかに重要であるかを、すなわち、これをやならければ人間形成はできないことをよく知っていたのだ。
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これらはまだほんの序の口である。「会社」「事業」「経営」が主語だが、忘れてはならない"お客様"との接点であり、最も重要な武器とは何であろうか。それが、プロダクトおよびパッケージであることは論を待たない。案外、パッケージは「事業」や「経営」と直結している。ゆえに「経営心得」ではなく、むしろ「包装開発心得」として読むべきであろう。
それにしても20年以上前の言葉とは思えないほど、現代の課題をよく捉えている。それだけ、本質を捉えた内容ということだ。「会社」「事業」「経営」「包装開発」にしろ、本質は時代によって変わるものではないとの証左でもある。最後に紹介した「環境整備」などは、本誌の主張する女性の活躍を、暗に示唆しているように思えてならない。また、いつかこの続きを紹介したいと思う。
プロフィール:一倉定(いちくらさだむ)
(1918年〜1999年)
「事業経営の成否は、99%社長次第で決まる」という信念から、社長だけを対象に情熱的に指導する異色のコンサルタント。空理空論を嫌い、徹底して“お客様第一主義と現場実践主義”を標榜。社長を小学生のように叱り、時には手にしたチョークを投げつける反面、社長の悩みを共にし、親身になって業績向上策を練り、幾多の高収益会社を育てる。その厳しく情熱溢れる指導に多くの社長が師と仰ぎ“社長の教祖”と呼ぶ。
経営指導歴35年、あらゆる業種・ 業態に精通、文字通りわが国に於ける経営コンサルタントの第一人者として、大中小5000余社を指導。著書に「一倉定の社長学」シリーズ9巻と別巻5冊、「経営の思いがけないコツ」をはじめ、「社長の販売学」「マネジメントへの挑戦」「原価計算で損をする」他多数。