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World View

リーダーとは「勇気」と「覚悟」をもった行動の人

※今月はインタビューをお休みし、特別編として「WORLD VIEW」を掲載いたします。

 米国ではオバマ大統領2期目の再選が決まった。次なる大国の中国でも、第18回党大会がようやく始まった。会期は2012年11月14日までとなり、本誌が読者のみなさんの手に届く頃には、総書記をはじめ新指導部が正式に発足していることだろう。
 とはいえ期待を抱ける様相はどこにもなく、日本をはじめ世界中で「殊に政治は混迷を極めている」といっても過言ではなかろう。要は政治体制が一新しても、リーダーとなる人物が不在なのである。古の言葉を借りれば「人の身の五尺六尺の魂も一尺の面に表れ、一尺の顔の魂も一寸の眼の内に収まり」である。
 心の曇りや迷いはそのまま顔や眼に表れるものであり、何をか言わずとも誰もが感じ取っているはずである。ゆえに、よくよく耳を澄ませてみれば、「思い切れ」「言い切れ」「申し切れ」「よくよく思い切れ」という古の言葉が聞えてこよう。15世紀末に始まる、あの"大航海時代"の突破口を開いたポルトガル王子のエンリケは「岬を越えて南進せよ!」と叫んだ。
 その向こうには、"暗黒の海"が広がると言われていたホジャドール岬である。要は「臆病の岬を越えよ!」という「勇気」と「覚悟」を持って行動することを求めたのである。これまでの「ワールドビュー」とは一味違うが、そんな思いから今回は白洲次郎氏の言葉(「プリンシプルのない日本」新潮文庫)を紹介する。1954年に残されたもので、時代や背景を差し引いても今に迫るものがある。
    ◇  ◇ 
 私が外遊中に起こったことだが、近頃の占領ボケの最秀逸は、議会解散前に米国務省がどう言ったの、米国大使がどう言ったとかの流説で、米国は日本の議会の解散を「許さない」ということを、政治家のお偉方の多数の人が信じ切っていたらしいことだ。
 こんなことをどうして信じたかは、私の様に少し常識のある人間共には了解出来ない。国民の大部分も了解出来なかったことは間違いないと思う。説明の仕様もないことを平気で信じられたということを、私は一概に占領ボケと片付けることにしている。追求すればする程腹が立つから。
 事業が苦しくなって来るにつれ、国家補助金を当てにする気分が大分頭を持ち上げて来たらしい。新しい日本としては、ドッジさんじゃないが、補助金の制度は止めた筈だ。私は原則的に補助金制度など大反対だ。今、補助金、補助金と叫び出している御連中にしても、何ヘン景気とか何とか言って金がもうかって仕様がなかった時には、税金以上のものを国家に自発的に納入する意志があったろうか。
 インチキな社会主義者みたいに「私が林檎を一つ持っている。この林檎はみんな私のもの。あなたが林檎を一つ持っている。その林檎の半分は私のもの」なんていうような差引取り、丸もうけなんていう考え方は、この頃はやりもしないし、通じるわけもない。どうしても或る産業の補助金を交付する必要があるのならやるがよい。然し私はその補助金をやるのに条件を付けたい。
(1)政府は補助金を授ける会社の経理を厳重に監査監督すること。
(2)その会社の利益がある程度以上になった時にはその超過分に対して累進的に重税を課すること。
(3)その会社の経営に当たる人事に就き政府が或る種の発言権を持つこと。
 大体補助金をやってまで運営しなければならない会社が、日本にあり得るとは私は思わない。敗戦で事実上国が変ったのだから、この新しい国でどんな産業が経済的に成立し得るかということを、考え直して見るべきではないだろうか。
 戦前まであった産業だから飽迄ガムシャラにしがみつくということは(各産業の当事者がそう考えるのは当り前で同情もするが)一般国民側から言わせると迷惑至極のことではないだろうか。夏中浴衣を着て心地よく着なれたから、秋になっても冬になっても、浴衣浴衣と頑張る奴は、狂人の類だと誰もが認めるのに、経済界にはこれと同じことが果たしてないだろうかと私は疑う。
 これは少し乱暴に聞こえるかも知れぬが、率直に言うと、補助金が無ければやって行けぬ様な産業はこの際思い切って止めるがよい。国家の経済環境はそれ程貧困なのだから。
 私に言わせると補助金制度よりもっと悪質なのは、政府がある民間の破産して回復の見込のたたない事業を救済するために、予算で巨額の金をとって国策会社式のものをつくり、その新会社をしてその破産会社を吸収させことである。今政府がこの種のことをやろうとしているというのでは勿論ない。
 戦前はよくあったこういうことを二度と繰り返してもらいたくないというばかりなのだ。又々話が横道にそれっぱなしで恐れ入るが、私の言いたいことは、もうそろそろ好い加減の一時しのぎやごまかしは止めた方が好い。もっと根本的に我国の経済の現状を直視してその将来を考えるが好い。
 つい半年程前までポンド過剰と騒ぎ廻り、今はポンドの手持ち急落潮を嘆き、何の事やらさっぱり判らぬ。輸出が減退して来て由々しき一大事だから、輸出を振興しなければならないと鳴物入りでわめき立てるのは至極もっともだが、輸出振興に対して根本的な施策として何を考えたか、何をしたかと言いたい。
 一例をいうと化学製品の輸出を増加しようという。どうするかというと化学製品のお偉方が集って通産省の役員を叱咤鞭励して大口電力の割当を増やそうという。電力会社は大口の割合が増えれば増える程損だし、一般家庭用、小口用の電力がもっと窮屈になるから反対する。
 然し泣く子と地頭には勝てぬと昔から相場が決まっているらしく、この大口割当は増えるだろう。化学会社は採算的には上昇するだろうし電力会社は収入が減るだろう。それもよかろう。私の言わんとする処は、2つの輸出不振の根本的な原因をほったらかしておいて、こういう小手先で一時しのぎをやっても何の進歩にもならないということだ。
 軍需産業の問題にしろ、「精神的」には同じである。国内的に産業を有利せんがために他の犠牲においてやるなんてことは永続きする筈もないし、又やる余裕もある筈がない。みんな危篤一歩手前の病人みたいな産業ばかりなのだから。
 吾々の時代にこの馬鹿な戦争をして、元も子もなくした責任をもっと痛烈に感じようではないか。日本の経済は根本的な立直しを要求しているのだと思う。恐らく吾々の余生の間には、大した好い日を見ずに終わるだろう。それ程事態は深刻で、前途は荊の道である。然し吾々が招いたこの失敗を、何分の一でも取り返して吾々の孫に引き継ぐべき責任と義務を私は感じる。