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World View

食とパッケージで促がす善い「気」の循環

今月はインタビューをお休みし、特別編として「WORLD VIEW」を掲載いたします。

 創刊から編集アドバイザーを引き受けていただいた包装プロの1人が、のちに「どうしても学びたい」として確か、修了過程では中国まで行かれ中医学を取得されたことがあった。「中医学」とは聞き慣れない人もいると思うが、いわゆる薬膳の基となる学問である。
 その方とは、レトルトの薬膳カレーの取材にご一緒いただいたことがある。そのときに、「レトルトパウチ素材に生薬を添加することで、カレーに徐々に浸透していくようなパウチはできないものか?」との、いただいたテーマは今も温め中である。
 もちろん現今の材料添加物の規制では認められないものだが、面白いテーマであることに変わりはない。もう1つ、中医学を取得されてから一度だけ聞いた講義のなかで、強く印象に残っていることがある。それは、中医学の基本ともいうべき内容で、人は食べ物から「気」をとるということである。
 いわば自然の気を食材を通じて身に入れるということであるが、どんな気を取り入れるかは人それぞれの心身の状態によって異なるが、おおむね旬の食材を取り入れることが基本のようであった。人も自然の一部ということの証であろう。
 そうした中医学を基にした食の知恵は、日本料理にも多く生かされているようだが、そうした料理のかたちを知らず知らずに失いかけていることも事実である。その意味で、今回は、料理研究家のパン・ウェイ女氏の食養生読本「中国三千年奶奶(ないない)の知恵」(講談社+α新書)の一部を紹介したい。
 ウェイ女氏は、読本のなかで中国の古いことわざを紹介している。それは「福は口から出る。病気は口から入る」というものだ。逆説的な表現ではあるが、「心身の健康は食にあり」ということである。食べ方次第で健康にもなれば、病気にもなる。
 
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 中国には、皇帝が不老不死を願い、「医(薬)食同源」を探求してきた長い歴史があります。食事療法の歴史は古代の周王朝の時代に始まり、すでに紀元前8世紀には、食べ物で病気の治療をする、「食医」と呼ばれる専門医が存在していたそうです。
 民間の人たちも、若々しく丈夫に長生きする方法を、あの手この手で探ってきました。食べるものが薬となり、病気を防いだり治したりするのだから、医者や薬に頼る前に、まず毎日の食事で健康を維持してきました。そうした医食同源の考え方が、脈々と受け継がれ、今日の日常生活に根づいているのです。
 日本は非常に天候に恵まれていますが、中国の真夏はとても暑く、冬は寒さの厳しい土地柄。「医」と「食」を結びつけないと、長生きできなかったということもあるのでしょう。最近の日本の若い方たちは、食事と健康の関係にあまり関心がないように思えますが、その背景にはこうした気候・風土の違いがあるのかもしれません。
 北京では、「今日は暑いからこれを食べなさい」「今日は乾燥しているからあれを食べなさい」という言葉が、日常会話のように飛び交っています。たとえば、北京の真冬の寒さはマイナス20度くらいになることもあり、半端ではありません。
 そこで、朝の挨拶は、「おはよう」よりまず先に、「今日は羊の肉を食べようね」なのです。羊の肉は体を温める食べものだからです。学校や仕事を終えて帰るときも、「さようなら」の代わりに「今日は寒かったね。早く家に帰って羊の肉を食べてね」と言い合います。
一方真夏は、「今日は暑かったね。家に帰ったら緑豆のスープを飲もうね」となります。緑豆は体の熱を取り除く食材だからです。また、女の子同士でも、「顔色が悪いから、レバーをいっぱい食べてね」といったり、「生理でしょ、これ食べなさい」と、お昼になつめを勧められることもあります。
 レバーにもなつめにも造血作用があるためです。また「のどがかゆい」といえば、のどに良いきんかんを買ってきて、「食べてね」と渡してくれたりもします。中国の人々にとって、医食同源は日常に根づいています。私が日本で教えている料理は、薬膳といっても中国では常識です。
 おばあちゃんから多くのことを教えてもらった分だけ、同世代の人より少々詳しいかもしれませんが、ほとんどのことはみんなが知っていること、やっていることに過ぎません。お母さんやおばあちゃんが作ってくれたものを、おいしく感じるのはなぜでしょう。
 作っている人の「おいしいものを食べさせたい」という気持ちの「気」や、自分の元気の「気」が家族のために出ていて、それが食べた人に伝わるからだと思います。料理の上手・下手は別問題。忙しいときでも、できるかぎり子どもや夫に食べさせてあげてください。
 子どもが親からの「気」を受け取れないと、これは大変なことになってしまいます。ここでの「気」は一言でいうならば愛情です。愛情があれば、おのずと身体にいいものを食べさせたいという思いも湧いてくるはずです。良いものを食べれば良い顔になります。
 中国の学校にも、いじめっ子がいて、私もいじめられて帰ったことがありました。すると、おばあちゃんは、「いいものを食べていないとイライラして人を攻撃する。あの子たちはいいものを食べていないのよ」と言いました。おばあちゃんは来客があると、必ずその方の顔を見ます。
 何を食べているかが分かるのだそうです。そして「いいものを食べている人は、元気でニコニコしていて、表情も豊かで、他人にも笑顔で接することができる」、また「元気のない顔をしていると、他人まで元気がなくなってしまう」と、常々言っていました。
 唐時代の名医の言葉に「食が邪を廃し、臓腑を安らげ、精神を悦ばせ、気分を爽やかにしうる」というのがあります。食は、体だけでなく心にも効く妙薬になりうる、という教えです。
 逆に、肉ばかり食べているとか、炭水化物しか摂らないとか、そういう偏った食事をつづけていると、体だけでなく気持ちにも歪みが出てきます。間違った食事は、ときに毒にもなりうるのです。
 3000年の歴史を持つ中国は、戦争の時代も長く、平和な時代も長く、その長い間に食文化が進みました。平和な時代には、皇帝も民間人の人々も、いかに贅沢に長生きするかを追求しました。戦争の時代は貧しい時代でもあり、だからこそ家庭での薬膳が大事にされました。
 少ない食料で、どうすれば病気をしないで長生きできるか、とくに食事に気をつける必要があったのです。どんな時代も、食べることが生きることだったわけです。中国人は、食べることだけでなく飲むことにも情熱的で、お茶の間の時間をとても大切にします。
 お茶の文化は平和な時代に発展したように思います。明の時代までは一般市民はお茶を飲めなかったようです。宋の時代になると、文化人が次のような飲み方をしたそうです。お茶を入れる前に茶葉のかたちを見て、漢詩を一曲詠み、お湯が入ったら、茶葉が踊っているのを見てまた一曲。
 飲み終わったら、さらに一曲詠みます。男性的な漢詩は、だいたい戦争の時代に多く詠まれたものですが、お茶を楽しむのは、ある程度平和でなくてはできないことです。東洋人に生まれて本当によかったと思ったことが何度もあります。
 その1つは、この不思議なお茶を飲んでいるとき、私にとっては、毎日絶対欠かせない、ご飯と同じ元気の素です。お茶の産地の静岡で生まれた父の影響もあり、赤ちゃんのときからお茶が好きで飲んでいたと聞きました。
 今でも朝から1日中、そのときの気分で何種類ものお茶を飲んでいます。お茶は、いつも傍らにいる頼りになる「友」のようなものです。最近では、痩せる、コレステロール値を下げる、活性酸素を抑えて老化を防ぐ、虫歯を予防する、風邪を予防するなど、お茶の様々な効果が見直されています。
 漢方では、人間の体質は変えられるが、それには3年間必要と考えます。3年間、同じような食べ方や生活をつづけないと体質は変えられません。漢方薬も同じです。飲んですぐに効くなどというわけはありません。だいたい3か月飲んで、ようやく効果が表れ始めます。

パン・ウェイ◎中国・北京生まれ。料理研究家。1986年に来日し、湘北短期大学を卒業。季節と身体をテーマに四季に沿った食生活を提唱し、現在は東京・代々木公園スタジオで料理教室を主宰。「きょうの料理」(NHK)などのテレビ出演や著作活動、講演会の他、企業向けのレシピ開発やコンサルタントでとして活躍中。