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World View

日本の精神文化を源流としたデザインのセンスと力

遠藤紀雄氏

(えんどうのりお)
東京芸術大学美術学部VD卒業。ポーラ化粧品意匠研究所を経て、1972年にハンドファストを設立。日本パッケージデザイン協会会員。2004年までの20年間、女子美術大学短期大学部情報デザイン専攻科講師として情報・パッケージデザインの講座を担当。
ハンドファスト(Handfast)/スタッフ8名。パッケージデザイン専門のデザイン事務所。化粧品が中心でトイレタリー・健康食品などの容器設計から化粧品箱デザイン、ロゴタイプ、イラストに至るまで、すべて社内スタッフが分担して制作する。主なクライアントは味の素、アテニア化粧品、石澤研究所、カネボウ化粧品、竹本容器、ちふれ化粧品、ファンケル、ポーラ化粧品、森永製菓、ユニリーバジャパン、ロート製薬など。
TEL:03-3405-6369

---- 「風に随つて(したがって)波の大小あり/薪(まき)によつて火の高下あり/池に随つて(したがって)蓮(はす)の大小あり/雨の大小は竜による/根ふかければ枝しげし/源(みなもと)遠ければ流(ながれ)ながしという/これなり」との古典の一節は、「源遠長流」として知られています。もとより本誌には、まだ自誌の流れを語れるほどの長さはありませんが、いうまでもなくこの言葉の意味は、流れの長さに比重がおかれたものではなく、その長短は"源流"によって決まることを示されたものです。本誌では今日ほど、それぞれの流れの"源流"に立ち返り、そこから再スタートすることの重要性が問われている時はないと考えています。まだ語るに及ばぬほどに短流ではあっても、本誌発刊の起源は「パッケージングの源流」を問い直すことから、「パッケージングの未来を思考する」ことにあります。2010年1月号には、編集アドバイザーの方から「ここ20年近くは、新しい包装技術の開発といえるものが何も見当らない」との嘆きも寄せられました。時代状況ということも多分にあるでしょうが、まさしくそのことが"源流"を見失ってしまった姿に思えてなりません。源流に立ち返ってスタートすることが、新しい時代のニーズに応えた価値創造の清新な息吹を蘇らせる。それが"デザイン力"ではないかと思っています。

遠藤)「迷ったら原点に戻れ」ともよく言われますね。そのことは、私も常々考えてきたことで、全く同感です。「デザイン(design)」というと図案・意匠などと訳され、表面的なカタチを表したものだと理解している人が多いと思いますが、実はそうではありません。「デザイン」は「計画を記号に表す」という意味のラテン語「designare」を語源としています。つまり、デザインとはある問題を解決するために思考・概念の組み立てを行い、それを様々な媒体に応じて表現するというのが本来の意味なのです。貴誌でも以前、取り上げられていましたが、"吸引力の落ちない唯一の掃除機"として日本でも浸透している掃除機「ダイソン」を開発したのは、サー・ジェームズ・ダイソン(Sir James Dyson)という産業デザイナーです。これなどは、ほんの一例に過ぎませんが、デザイン力が新しい技術を生み出したという証左ともいえましょう。現今の経済危機など、人類史上かつてない様々な問題を抱え、世界中を暗雲が覆っているような状況ではありますが、同時に私は、こうしたデザイン力に注目して、活路を拓こうとする意思が徐々に表れ始めてきたように感じています。"源流"に立ち返るといった点では私も、日本がこれまで培ってきた潜在する優れたデザイン力に期待している1人です。「ジャパン・クール」などと日本のプロダクトが評価されている所以も、実はそうしたところにあるのではないでしょうか。

---- 確かにパッケージの分野などでも、日本人が持つデザイン・センスへの海外での評価や関心の高さに驚いたことがあります。中国・台湾や韓国などから日本へのパッケージデザインの制作依頼なども増えていると聞きます。その内容も、現地向けのデザインというのではなく、あえて日本らしさを生かしたデザインが求められるようです。

遠藤)当社でも、たとえば中国・ヨーロッパ・ロシアで販売される化粧品のデザイン制作を手掛けていますが、日本のセンスを生かしたデザインが好まれるようです。パッケージデザインの分野はこれからだといえますが、ご承知のように、すでに海外の様々な分野で活躍する日本人デザイナーは数多くいます。2009年末の「日本経済新聞」に掲載をされていた工業デザイナーの奥山清行氏もその1人でしょう。彼の文章の中にイタリアの名門デザイン工房であるピニンファリーナなどで名車のデザインを手掛けた経験を通して「イタリアといえばフェラーリにグッチ、プラダ。共通項は、みな地方の中小企業だが、向いているのは世界ということ」と、豊富な伝統技術を持つ日本の中小企業の可能性を指摘しています。その中でも、私が注目したのは今後、経済よりも文化的な豊かさを人々は求めるようになるとして、奥山氏が「日本はそんな『底上げされた世界』をにらみ、今から付加価値の高い産業を構築しておくべきだ」と述べている点です。この「底上げされた世界」を創造する力こそが、日本の精神文化の源流に立ち返ることで生み出される"デザイン力"であると思っています。岡倉天心の「茶の本」は、日本の精神文化を広く世界に紹介した書物として大変に著名ですが、最近、国内でもあらためてその内容に関心が寄せられています。日本の精神文化には、その"独自性"とともに世界に通ずる"普遍性"が内存しているからだと思います。日本の精神文化は世界に誇れるものであり、新しい時代ニーズにも十分に応えうる価値創造の大きな力を秘めています。

---- 新しい時代ニーズに応えた価値創造が最も身近なカタチとして具現化するのが、プロダクトマーケットを支えるパッケージングの世界(WORLD)だと思っています。ゆえに、グローバリゼーションがいよいよ加速する中で、いち早く"JPACKWORLD"を確立してゆくことの意義は大きいと感じています。「ジャパン・クール」といった日本のプロダクトへの海外から関心が冷めない内に...。

遠藤)全く同感です。私自身、日本人としてのデザイン・センスを日々磨きながら、パッケージデザインとしての具現化に努めています。十数年前からデザインによる"独自性"と"普遍性"との兼備を追求した1つの手法として、「スタンダードボトルシステム」といったものを思考し、ボトルメーカーとの協力関係の下で手掛けてきました。国内では着実に浸透しつつあり、今後はグローバリゼーションを強く意識しながら、中国をはじめとしたアジアマーケットでの評価に関心を持っています。