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新しい価値転換の担い手は「感性の人」

新田茂夫氏

(にった しげお)

1952年、慶応義塾大学卒業。1952年、日本紙業株式会社。1963年、本州製紙株式会社。1985年、本州包材株式会社社長。1989年、高成株式会社社長。2003年、NCPコーポレーション社長。1989年〜現在、21世紀包装研究協会会長。

---- 内閣府が発表した2009年12月の景気動向指数(2005年=100)では一致指数が97.6と、前月に比べて1.6ポイント上昇していますが、まだリーマンショック直後の水準に戻ったに過ぎません。景気の"二番底"を憂慮する声もあり、景気動向は余談を許さない状況です。財務省が発表した7?9月期の法人企業統計でも、設備投資は前年同期比24.8%減と10四半期連続で前年同期を下回っています。なかでも、製造業の減少率は40.7%と過去最大です。依然、景気の先ゆき不透明感は払拭しきれず、企業の投資マインドは冷え込んでいると言わざるを得ません。巷では巣籠り需要などが話題ですが、なす術を見出せない企業が冬籠りを決め込むことになるのは大きな問題です。

新田)国内では、戦後初めてのデフレとなったこともあり、急速にデフレスパイラルなどが進むことも懸念されますね。周囲に何となく漂う"暗さ"といった生活実感からも、今回の不況にはかつてない違和感を抱いています。貴誌でも度々、少子高齢化を背景とした人口減少などにみる、国内での需要構造の変化に焦点を当てた「特集」を組んでいますが、私はそうした視点が非常に大事だと思っています。
 "経済危機"という表層的な景気現象のみに囚われていては、例えばデフレの正体といったような、プロダクトマーケットの実像がハッキリと見えてこないと思います。「なす術を見出せない」というのではなく、まずは変化しゆくマーケットの実像を的確に捉えることが大事です。そうすれば、"なす術"といったことは自ずと見えてくるはずです。簡単なことのようで、このことが一番難しいといえます。
 暦の上では「立春」を迎えたとはいえ、2月はまだ厳寒の候ですから、冬籠りしたい気持ちはよく分かります。しかし、戸外には時を違えず梅の花が咲き香っており、それは誰の目にも春の到来を告げるものです。私は、「100年に1度」と呼ばれる"経済危機"をむしろ積極的に、かつてない時代変化の"潮目"として捉えるべきだと思います。少なくても日本人なら、厳寒に咲く梅の花に春の到来を感じとる感性を、誰もが持っているはずです。現状では、出口のないデフレスパイラルに陥りつつあるように見えるプロダクトマーケットも、大きく価値転換しゆく潮目とみれば、すでに芽吹きつつある新しい需要創造の兆しといったことを感じとることはできるはずです。

---- 「冬こもり 春へを恋ひて 植ゑし木の 実になる時を 片待つ我れぞ」との、柿本人麻呂の万葉集の和歌を想起します。ただ春の到来をじっと耐えて待つというのではなく、自ら積極的に春を呼び込もうとする意志が大事ですね。そこに、瑞々しい感性の働きを感じます。絶えず巡りゆく四季の変化には、やはり何らかの先兆が必ず現れているはずで、感性はそのわずかな兆しを見逃さない。感性について以前、「感受性は、巨大な人格に固有のものではけっしてない。(中略)すべての人に備わり、真のリアリティ、真に生きるに値するものの心音を聞き取ることのできる能力です」との、非常に印象的な記事を読みました。新田さんの「誰もが持っている」との言葉とも共通するもので、多くの人の励みとなるでしょう。

新田)自然と同じく、時代も、プロダクトマーケットも常に変化しゆくものです。ゆえに、その変化をいち早く認識し、どう対応していくかに尽きると思います。そのためには、「知性(知識・知恵)」と「品性」「根性(努力・持続)」「感性」の「4性」を磨くことが大事だと、私は常々訴えてきました。なかでも感性が、今ほど重要な時はないと思っています。長い間、自然とともに生きてきた日本人が、四季の変化の中で磨いてきた感性は、今もDNAの中に確実に生きていると思います。
 いうまでもなく現実(肌感覚)を離れたところで感性が働くはずはなく、現実とは対極にあるバーチャル・リアリティへの傾倒から招いた今回の経済危機であるだけに、その打開には"感性"の働きによるところが大きいと思います。とはいえ、その感性も、先に触れた他の「3性」の土台の上ではじめて働きを発揮するものであり、私はこうした大きな時代変化の中に身をおくことは、感性を磨く人材育成のよいチャンスだと考えます。
 時代変化といっても、価値転換といっても、その担い手はやはり人ですからね。団塊の世代のリタイアに始まり今、ドラスティックに世代交代が進み始めています。また包装産業でも、環境配慮やユニーバサル・デザイン、マーケットでの差別化などが、今後の開発での重要なキーワードとなっていますが、私は求められる価値転換には"技術"よりもむしろ"発想"が大事だと思っています。そうした意味でも、この「4性」を備えた人材育成といったことが今後、大きな焦点になってくることは間違いないでしょう。
 幸いにも、「包装」には1つのカテゴリーでは到底括れないという、おもしろさがあります。包装という視点からは、プロダクトマーケットを多角的、広角的に見ることができるとともに、机上の学問にはけっして収まらない個別性を有しています。つまり、現実のプロダクトマーケットからけっして切り離して存在しないということです。私は、象牙の塔に籠もった学問には常々疑問を抱いており、ゆえに私はかねて「包装実務者」という言葉を用い、その養成を強く訴えてきました。特に思考力や好奇心、私はあえて"異常な好奇心"といいたいのですが、これらは包装実務を学ぶ上で最も大切な要素です。