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World View

パッケージはノンバーバルなコミケ

今月はインタビューをお休みし、特別編として「WORLD VIEW」を掲載いたします。

 2024年を迎え、新春の慶びを申し述べたいところだが、元旦より最大震度7の能登半島地震が発生し、翌2日には羽田空港の旅客機炎上事故、北九州市小倉北区の鳥町食道街の火事など多事多難がつづいている。まずは大小に関わらず被害を受けられた方々に心よりお見舞い申し上げるとともに、悲運にも亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げます。
 昨2023年は、日本全国各地でクマによる被害が多発し、2023ユーキャン新語・流行語大賞のトップ10に「OSO 18/アーバンベア」がランクインした。その「OSO18」と呼ばれた巨大ヒグマがハンターよって射殺されたことも話題となった。
 「OSO18」の由来は、最初に目撃された標茶町の地名「オソツベツ」と、18㎝の前足幅に因む。何度も捕獲を試みられるが、日中は姿を見せず発砲の禁じられる鳥獣保護法を逆手に夜間の行動を繰り返した。また痕跡を残さないよう河原や道路を避け、川のなかを歩くかと思えば橋の下を迂回するなどハンターたちの手を焼いてきたこともコードネームで呼ばれる由来である。
 だが「OSO18」とのコードネームの由来にしても、また熊による被害の多発にしても、われわれ人間の主観に過ぎず、けしてクマの実像や本意を表してはいない。それこそは「クマのみぞ知る」だが、地球上に共存する生物仲間として、われわれはもう少しクマ(ほかの生物)に寄り添って考えてみるべきではなかろうか。
 近年は「温暖化」「異常気象」などが喧伝されるが、その影響を受けているのは、なにもわれわれ人間だけではあるまい。ましてや「温暖化」「異常気象」の原因は、われわれ人類の社会活動にあるやもしれないのだ。そのことの一端でも学ぶべく、今回は霊長類学者の山極寿一氏と動物言語学者の鈴木俊貴氏との対談集「動物たちは何をしゃべっているのか?」(集英社)から一部を紹介したい。
 
* * * 
 
山極寿一:進化の過程で脳が大きくなった話をしましたが、実はわれわれの脳はここ1万年の間、縮んでいます。40万年前に生きていたホモ・ハイデルベルゲンシスの段階で、現代人と同じサイズの脳を手に入れ、ネアンデルタール人は現代人より少し大きな脳をもっていたのに、それが縮んでいるんです。
 その理由は単純で、ヒトは脳を外づけのデータベースをたくさん手に入れたからですよね。その代表が文字です。文字に託せば、覚えておく必要ないからね。
鈴木俊貴:確かにそうですよね。現代はパソコンやスマートフォンが普及しているので、脳に記憶する必要性がどんどんなくなっていると思います。
山極:地図やスマートフォンのマップアプリの浸透で、地理的な感覚が鈍ることもあるでしょう。
鈴木:確かに、地図がなかったころは、道に迷わないように現在どこを歩いているのか意識していたはずですもんね。僕も、電波の届かないような山奥で鳥を追いかけているときは、街にいるときよりも地理感覚が敏感になっていると感じます。
 街では道に迷っても、森のなかでは迷いません。無意識的に自分の位置を把握しているからだと思いますが、それが本来の姿なのかもしれません。インターネット上の知識もまさに外付けのデータベースそのものですね。ちょっとしたキーワードを入力すれば、すぐに何かしらの答えが出てくる。
 今は人に聞くより検索する方が早いし効率的なんです。でも、それはすごく問題だと僕は思っています。だって研究もアートも、クリエイティブなものは、誰かが考えたこと、つまり文字化された検索結果ではないんですよ。経験の異なる個人の脳が生んでいるわけで。その脳の能力が衰退しているとなると、人類の未来は明るくないんじゃないでしょうか。
山極:そうですね。でも、打つ手はあるはずなんだ。手に入れた現代社会の快適さや科学技術を捨てることはできません。そうじゃなくて、それらを賢く使ったらいいと思う。動物の言葉から始まった、私と鈴木さんの対談はヒトの言葉の暴走に対処する方法まで示して終えたいと思っています。
 人間の言葉の特徴として、物事を「分ける」力と「つなぐ」力をあわせもっている点があると思うんです。言葉を使うと、「生物」「動物」「鳥」「シジュウカラ」...という風に、世界にあるものをドンドン細かく分類することができますよね。それが分ける力。
 でも、逆にまとめることもできる。私の目の前にあるティーカップと鈴木さんが持っているPETボトルは形も素材も違うけれど、「器」という言葉を使えばひとまとめにできますね。
鈴木:確かに細分化していくこととそれをまとめることの両方ができますし、それに対応した言葉がある。
山極:でも、ヒトの感情や感性は細かく分けることはできないと思う。夏の夕方の切なく心地いい感じを「ツクツクボウシの鳴き声」「摂氏29℃」「摂氏29℃の風」「湿度55%」といった具合に、言葉で切り分けてしまったら、あの独特の感じは失われます。
鈴木:言葉によってただ情報を並べるだけでは、感性は伝わらないと。確かにそれはそうなのですが、どうしてでしょうか。
山極:ヒトの言葉は、音楽的な言葉によって大きな流れやまとまりを表現する段階から、それらを細かく切り分けるように発展してきたのではないかと思うんです。
鈴木:音楽的、感情的な箇所から言葉が派生した。だから、言葉を並べるだけでは感情的な部分を補えないという仮説ですね。つまり、ヒトのコミュニケーションのなかにはまだ言語化されていないような音楽的な要素もあって、言葉を並べるだけではそれを伝えきれないと。
山極:そうです。そして、細分化する力と同時に、先ほどの器の例みたいに、切り分けたもの同士をつなぐ力が生まれた。併合の能力も、つなぐ操作ですよね。
鈴木:なるほど。
山極:今の話をまた別の角度から表現してみよう。「走る」という言葉がありますが、ヒトが走るのと、ゴリラが走るのと、ティラノサウルスが走るのとでは全然違う現象ですよね。でも、それをまとめて「走る」と表現してしまうことで、いちいち異なる表現を使う努力を節約しているわけです。
鈴木:動きの共通点から「走る」という言葉を当てているわけですよね。
山極:ただし、その代償として、生物ごとの走り方の細かい違いは切り捨てています。
鈴木:節約する代わりに、切り捨てられた情報がある。
山極:しかし、私たちはその情報を補う力をもっている。たとえば、私はヒトが走るのとゴリラが走るのは見たことがあるけれど、ティラノサウルスが走るのを見たことがないから、想像できないはずです。でも、なんとなくイメージできるのは「ティラノサウルスは二足で歩いていて、かつ鳥に近いわけだから、ダチョウが走っているみたいな感じかな」と、似たものごとから類推できるから。
鈴木:この場合でいうと、映像的な類推ですよね。
山極:そうです。人が想像するのは言葉じゃなくて、言葉によって呼び起こされた画像や映像ですよね。
鈴木:そして、その映像をつないで「走るティラノサウルス」を脳のなかに投射できる。
山極:つまり人間の言語は、節約機能によってたくさんの情報を切り捨てているんだけど、映像的なアナロジーによってあとから補うこともできるんです。だから言葉が成立しているとも言えます。
鈴木:確かにそうですね。アナロジーによって色々な言葉表現が可能になったともいえます。
山極:そしてアナロジーによる補いは、さっき言った言葉の機能の「つなぐ力」によるものだと思うんです。一旦バラバラにしたものを再構成する力。少し飛躍するなら、ストーリー化する力をいってもいいはずです。

山極寿一(やまぎわじゅいち)
1952年、東京生まれ。京都大学理学部卒し、同大学院理学研究科修士課程修了。京都大学理学博士。日本モンキーセンター・リサーチフェロー、京都大学霊長類研究所助手、同大学院理学研究科助教授、教授、理学研究科長・理学部長、京都大学総長を経て、現在は総合地球環境学研究所所長。
 
鈴木俊貴(すずきとしたか)
1983年、東京生まれ。東邦大理学部生物学科し、立教大大学院理学研究科博士後期課程修了。京都大学白眉センター特定助教などを経て、2023年から東京大先端科学技術研究センター准教授。絵本「にんじゃ シジュウカラのすけ」に掲載のシジュウカラ語の監修を務めた。