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〈編集部発〉第3回「ジェイクルーズ(JCRUIES)」終了報告

2010.08.31

n_20100901_02.jpg◎中小企業といえどもグローバル化は必要

 ジェイパックワールド主催の"中小企業のグローバル化"をテーマにした、第3回「ジェイクルーズ(JCRUIES)」が無事終了した。「スウェーデン企業買収によるグローバル戦略の実践」をテーマに、鈴木金属工業・代表取締役社長の杉浦登氏が講師を担当した。2009年の業界で世界トップシェアを持つガルピッタン社(スウェーデン)の買収を通じて、資金や人材不足などの課題山積の中小企業がいかにグローバル化を実現したのかということが詳細に語られた。
 講演終了後には具体的な質問が相次ぎ、その後の懇親会も熱冷めやらぬ質問が続いていた。参加者には、実際に海外企業の買収を考えているところや、海外進出を始めているところ、国内での事業展開に先ゆきの不安を感じているなど様々であった。それだけに、「非常に興味深い内容」「刺激的な内容」などの感想が多かった。資金の調達法なども去ることながら、年間売上20億円程度(買収当時)の企業が100億円規模の企業買収を決断した最大のポイントとは何か。そこに最も関心が寄せられたことはいうまでもない。

◎業界世界トップのスウェーデン企業を買収

 鈴木金属工業は、主にエンジンの弁バネ材やピアノ線などに様々な分野で使用されるステンレスワイヤーのメーカーで、買収当時は業界の国内トップ、世界では第2位のシェアを誇っていた。とはいえ、グローバルニッチなマーケットで、中小企業によって支えられている。業界は異なれども、将来的な国内需要の縮小や需要家の海外進出と現地調達化、グローバル人材の不足、海外メーカーの攻勢など、自動車産業が主な需要先なだけに、進行のスピードはやや速いが、包装産業も全く同じ環境下にあるといっても過言ではない。
 杉浦氏は、「国内に止まっていては現状維持がやっとで、まず成長は望めない。中小企業にとって、グローバル化は決して平坦な道のりではないが、成長のためにはグローバル化が必要」と確信を持って語る。内需依存への危機感から、同社はグローバル化の手立てを模索していた。世界トップシェアを持つガルピッタンの買収は、幾つもの奇蹟が重なった結果であることは間違いない。
 「賢人は安きに居て危きを歎き、佞人(ねいじん)は危きに居て安きを歎く」と古典に説かれる如く、常に危機感を持ち、グローバル化といったビジョンを抱いていなければ、けっして奇蹟など起きなかったはずである。まだ緊張の冷めやらぬ感で、杉浦氏は「一生に1度しかない最大のチャンスだった」と当時を振り返る。2009年9月12日の1本の電話から始まる。「もし、秘書が電話を繋いでくれなければ、買収はなかった」と杉浦氏。それは、スウェーデンのインベストメントバンカーからの電話で、秘書の方は英語ができなかったようだ。つまり、何となく電話先の意向を汲み取ったわけである。
 その電話に出る杉浦氏も杉浦氏だが、若い頃に英語圏への留学経験があったことが幸いした。以後、2008年12月25日の調印までわずか約3カ月、すでにお気づきの方も多いと思うが、まさに前代未聞のリーマンショック直後の経済情勢下である。結果から振り返れば、それが幸いした面もあるのは確かだが、どれだけの課題があったかは想像に難くない。経営陣の半分は反対の中でのトップの決断である。本誌は、「ジェイクルーズ」の案内で"トップの英断"と表記した。
 鈴木金属工業はこの買収で、スズキ・ガルピッタングループとして一気にグローバル化を実現した。中国と北米、スウェーデンと日本とのグローバル4極体制を確立している。いうまでもなく日本は経済危機からの立ち直りが遅れており、買収から1年を経て「他の3極が日本を牽引しています」と杉浦氏は語る。1本の電話から約3ヶ月で契約調印まで陣頭指揮で、同社にとっては漸次未踏となる買収を成し遂げた、その実感は「とにかく時間との戦いで、次から次へと来る課題を1つ1つ、ただ一心不乱でした」というものだ。
 それだけに、参加者からのどんな質問にも迷うことなく明快に答えていた。スウェーデンの法律事務所での最初の買収交渉で、杉浦氏が発した質問は「この国で最も大事されていることは?」であったようだ。それには、即座に「透明性と公平性です」との答えが返ってきたという。買収交渉の中での徹底的な調査でも、やはり透明性と公平性がガルピッタンの企業文化となっていることを実感したようだ。いわば、そこが買収を契約調印まで推し進めた最大の力となっている。
 さて、冒頭の「決断した最大のポイントは?」との質問に対する、杉浦氏の答えは「人です」。鈴木金属工業が買収で手に入れたのは、単にガルピッタンの技術でもなければグローバル4極体制だけではない。日本企業が苦手とするグローバル展開でのオペレーションのノウハウである。杉浦氏は「ガルピッタンに学ぶことは多い」として、定期的な人材交流を図りながら良いところは積極的に取り入れている。個人の尊重をベースとした会議手法やITの活用、また女性登用にも積極的である。
 国内企業でも公用語を英語にするという方針を打ち出す動きもあるが、買収後に1度全ての社員に「TOEFL」を受けさせたようである。その結果をみて、杉浦氏は「全員同じように求めるのは無理があります」と悟ったとのこと。これも、ガルピッタンに学んだ個人の尊重の1つであろう。