《編集部発》第4回ジェイクルーズ(JCRUISE)終了報告
2010.10.04
化粧品容器開発"をテーマにした、ジェイパックワールドが主催する第4回「ジェイクルーズ(JCRUISE)」(2010年9月29日)が無事終了した。同様に本誌が主催する女性だけの集いとなる「ジェイサロン(JSALON)」に引き続き、コーセーコスメポートの商品開発部デザイン室室長の山田博子氏を講師に迎えたもの。性別を問わずに人を引き付ける山田氏の不思議な魅力が、両方を通じて遺憾なく発揮されたといえる。
「エイジングケア『クリニティ アクティライズ』とコーセーコスメポート流容器開発の奥義」をテーマにした講演で、新商品(2010年8月23日発売)であるエイジングケア「クリニティ アクティライズ」の開発事例を通して、波乱万丈の人生経験と女性ならではの感性から、いかに商品開発が進められるかが明かされた。誤解を恐れずにいえば"コーセーコスメポート流"というよりも、むしろ"山田流"ともいえるものである。
ただ、それが山田氏のみに止まるものかといえば、そうではなさそうである。山田氏がよく口にするのは、「毎朝、出かける時に『会社へ行ってきます』と言っていませんか」と問答だ。その答えは「『行ってきます』じゃだめなのよ。『創ってきます』といわなきゃ」である。この答えが、コーセーコスメポートを創業から手掛けてきた山田氏の経験に裏打ちされていることはもちろんだが、「そうした責任感に立て!」との叱咤激励である。
◎徹底した現場主義と顧客目線
「商品を1つ造る毎に、会社が大きくなりました」との語る山田氏には、"プロダクト開発=会社づくり"との確信があるのだ。勘の良い人はもうお分かりだと思うが、その責任感に立つならば百人百様の"奥義"が生まれてくるはずである。つまり、けっして"山田流"に止まるものではなく、百様の"○○流"が生まれてこなければならない。以前、山田氏から「たとえば桜のように、沢山の花びらが一斉開花するような商品開発」といった趣旨の聞いたことがある。
自然の摂理だともいえようが、山田氏がこれまでの経験から導き出した理想的な開発スタイルや組織といったものをイメージしたものであろう。その意味で山田氏は、誰もが至ることのできるゴールへと導く"師"の存在とも言え、講演内容はその片鱗をうかがわせるものであった。いうまでもなく一斉開花のポイントは"温度"である。では、その"温度"はどこからやってくるのか。かつて「青年の熱が世界の温度を決める。青年の熱が冷め、温度が低くなれば人民は凍え死んでしまう」との言葉を読んだことがある。
山田氏はいう、「まず心が先!」と。青年ならずとも熱は心に生じるもので、それは顧客と通い合うものである。言い換えれば「心の熱がマーケットの温度を決める」とはいえまいか。ゆえに顧客から心が離れれば熱は冷める。山田氏の現場主義、顧客目線は徹底している。「数字は自身の確信を裏付けるもの」と、けっして数字で判断しないようだ。また必要とあれば、関連する資料を片っぱしから調べ上げるとともに、特定の店舗に行っては1人で定点観測を実施するようである。そこに山田氏の熱源をみる思いとともに、「他社の陳列商品から、その開発意図や苦労がうかがえます」と非常に楽しんでいるようである。
「ジェイクルーズ」の面白さは、誌面ではどうしても表しにくいそうした熱い思いがダイレクトに伝わるところであろう。講演終了後には「山田さんの熱い思いが伝わりました」と声を詰まらせる参加者もあった。数十年ぶりに山田氏と再会した人は「まったく変わらないどころか、かつて以上の情熱を感じました」との感想をもらしていた。まさにプロダクトの開発と同様に「魂が込められた」講演内容となり、続く懇親会では定時を過ぎても席を立つ人は誰もいなかった。第4回目となった「ジェイクルーズ」では始まって以来のことである。
◎磨き上げられた女性の感性
顧客目線ということでは、「クリニティ アクティライズ」のパッケージではトリガータイプのディスペンサーを採用するとともに、不思議な形状のツバがボトルについている。それは、まるでリンゴの実に残るヘタのような形である。トリガータイプのディスペンサーの採用は社内でも反対が多かったようだが、かつて片手の不自由な人から言われた「片手でも使いやすい化粧水容器にしてください」との小さな声に応えたものである。
ツバ付も同様な考え方からだが、こちらはプッシュタイプのディスペンサー用である。しかしながら、"無"からなかなか"有"は生じにくい。その発想は、海外で見たシャンプー・リンスボトルに付いたツバから生まれたもののようだ。実際に、それが何のためのツバかは不明なようだが、いつもように衆知を結集して考えたようである。そこから導き出した答えが、「クリニティ アクティライズ」ボトルのツバとなった。
そう考えてみれば、補助部位としてのツバの利用は身のまわりでもしばしば目にする。山田氏の観察眼が捉えたのは、子どもの練習用ハシや手の自由な人用のスプーン、そして驚きは床屋・美容師用のハサミの形状である。「ああ、なるほど!」と膝を打つ人は少なくなかろう。本誌は、こうした一連の開発の視点には山田氏の独自経験とともに、磨き上げられた女性の感性が見事に開花していると思えてならない。むしろ、それこそがデフレ時代を乗り越える知恵ではなかろうか。