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ニュースフラッシュ

《編集部発》第3回「ジェイサロン」開催報告

2010.11.01

◎マイナスの経験が想像を超えた価値創造の源泉

n_20101101_04.jpg ジェイパックワールド(JPACKWORLD)が主催する、packageを"キー"とした女性の集い、第3回「ジェイサロン(Jsalon)」(学習・座談会)が2010年10月28日、台東区の竹本容器本社で開催された。年内(2010年)最後となるもので、「Jsalon」では初の男性講師を迎えての開催となった。その第3回「Jsalon」の担当講師となったのは、サントリービジネスエキスパート・デザイン部長の加藤芳夫氏である。
 「インハウスならではの失敗を生かす知恵とデザイン 〜"やってみなはれ"の精神に貫かれた100年に学ぶ〜」とのタイトルで、加藤氏自身のこれまでの人生経験が、そのままデザインワークと密接に結び付いているという実感を語るものだった。一方で、今も"やってみなはれ"の精神が脈打つサントリーデザインの100年史をDVD(資生堂・サントリーの商品デザイン展)で紹介しながら、サントリーのデザイン・コンセプトに迫る話であった。
 いうまでもなくサントリーは、インハウス・デザインを有する数少ない食品メーカーの1つであり、100年というスパンからは捉えがたいものだが、少なくとも加藤氏はサントリーデザインの1つの変革期に立ち合ったといえる。まさしく"プロダクト・アウト"から"マーケット・イン"へと大きく意識が変わりゆく中で、加藤氏は「飲料開発で必要不可欠なことは、自らの"渇き"の経験である」と語った。
 
◎パッケージの要素を、人格を形成する要素と対比
 
 いわれてみれば当然のことだが、渇きは身体で感じる以外になく到底、考えて理解できるものなどではない。パッケージ商品の開発の"妙"は、同時に顧客でもあるということである。仮にも、そのことをどこかに置いて開発した商品が売れるわけがない。飲料開発でキーとなる"渇き"を敷衍して、加藤氏は「マイナスの経験が価値創造の源泉となるプラスに転じる」と言う。
 小学生時代、加藤氏は掛け算の"九九"を理解できなかったという。「掛け算とは何か」「なぜ"九九"を暗記しなければならないのか」等々の本質的な疑問が、掛け算の理解を不能にした。加藤氏の話を聞きながら、果たしてどのような答えが用意されるべきだったか、と考えると疑問が残る。いわゆる「禅問答」のようなものではなかろうか。事実、加藤氏は「もしその時に、納得できる答えを得て入れば、今の自分はなかったかもしれない」と言った。
 加藤氏は、若い頃に「人生とは生きること」という真理と出合ったようである。疑問や課題を抱えながらも、それに拘泥することなくとにかく前に進む。けって立ち止まることなく、常に明日へ生きようとする"楽観主義"をベースとすれば、抱えてきた疑問や課題がいつか想像を超えた価値の創造につながるということであろう。マイナスと思えたことがプラスと転じるのである。
 仏典には、「煩悩(ぼんのう)の薪を焼いて、菩提(ぼだい)の慧火(えか)を現前するなり」という「煩悩即菩提(ぼんのうそくぼだい)」「生死即涅槃(しょうじそくねはん)」といった生命の法理が説かれている。加藤氏の人生経験を通じたデザインワークがそれを如実に物語っている。パッケージデザインとは、単に色やカタチを決めるものではない。2004年に制作された「SUNTORY DESIGN BOOK 2004」には、「パッケージデザインは、商品の姿をつくる仕事です。姿は外見に内面が映し出されるように、パッケージも内なる要素によってつくられます。――中略『商品づくりは人間づくり』サントリーデザインの真髄です」と書かれている。
 こうした考えに基づき、サントリーでは人格を形成する要素と対比させ、パッケージデザインを以下の6つの構成要素に分解する。

1)Naming(名前)
2)Form(姿・かたち)
3)Graphics(言葉)
4)Symbol(顔)
5)Ornament(服装)
6)Identity(出生・家族・血縁)
 
 先に"サントリーのデザイン・コンセプト"という言葉を用いたが、加藤氏は"掛け算"と同じく、この「コンセプト(Concept)」という言葉の意味が「まだよく理解できない」と言う。もちろん、辞書で引けば「概念。観念。骨格となる発想や観点」という意味となるわけだが、まさしく禅問答的な疑問となるものであろう。そこで、本誌では「人格を形成する要素との対比では?」との疑問をぶつけてみた。
 すると、加藤氏は「魂。存在全体を表すもの」と答えた。なるほど、それなら明確に捉えがたいのは当然であろう。その根拠として加藤氏が挙げたのは、「Concept」のルーツである。「Concept」は、「妊娠する」という意味の「Conceive」と同じ語源から発生した言葉のようだ。確かに"妊娠"とは「受胎」であり、この世に初めて存在することを意味する。
 「受胎」の神秘といったことはここでは置くとして、逆に加藤氏は「Concept」の意味を直感的に掴んでいるのかもしれない。本誌も極力、疑問を持ち続けるようにしているが、いつしか分かったつもりになっているのかもしれない。加藤氏は、サントリーのデザイン制作過程をバケツリレーから、議論を戦わせるプロジェクト制に変えた。「無知だから質問できる」「肩書きがないから強い」「議論の中で自信と確信が生まれる」等々は、まさに「白熱教室」から生まれた加藤氏の発した言葉である。