《編集部発》紙素材パッケージの魅力 気包紙
2011.04.14
大手製紙会社の主力工業が震災で大きな被害を受けたことから、本誌も例外なく印刷紙の調達に苦労を強いられている。約1ヵ月前、小売流通店舗の陳列棚から食品などの一部商品がにわかに姿を消したことに似ている。前日まではモノが溢れていたのに、潮が引くようにアッという間に品薄となった。
同様に、つい昨日までは"ペーパーレス"などと、すべてにおいてデジタル化に沸いていた。それが、紙が供給不足になるや途端に、紙を必死に探し求めている。酷い場合には買い占めや値上げが始まる。"人間の性"といえばそれまでだが、浅はかさにも程がある。もうそろそろ、しっかりと将来を見つめ、大人の落ち着きを持って現状を見直しながら、正しい選択と判断をしなければならない。
もちろん"デジタル"には紙にはない良さがあるとともに、"紙"にもデジタルにはない良さがある。何事にも光があれば陰がある。太陽と月との関係のように、相互関係により良い面を引き出し、できるだけ悪弊を小さくすることが大事である。「善いことというものは、カタツムリの速度で動く」とは、インドの独立の父であるマハトマ・ガンジーの言葉である。
まさしく震災は、愚かな人間の短兵急な判断と変化のスピードの速さに「待った!」を掛けたともいえる。もう1ヵ月を経て、愚か者でもそろそろ反省すべき時であろう。パッケージの分野でも、その機能性や生産性などから、概観すると紙素材からプラスチック素材へとシフトする向きもあった。脱化石燃料では、むしろ植物由来のプラスチックへと関心が動きている。
本誌などは単純に「植物由来ならば"紙"でいいだろう」と思ってしまう。もちろん、プラスチックには紙では再現できない特徴があることは百も承知である。"逆もまた真なり"で、ここらでもう一度、紙素材ならではの良さを考えてみるべきではないか。「カタツムリの速度で動く」ならば、良さがよく見えてくるのではないだろうか。
特にパッケージの日本語訳となる「包装」の"装"では、紙素材の良さが生かせそうである。1つのパッケージの原形として、昔から親しまれてきた"おひねり"が、仮にプラスチックだったら、かなり味気ないものになっていなかっただろうか。紙素材は人の心をよく伝える性質があるようだ。「その媒体は"水"である」という研究者もいる。
さて、そんな紙素材の魅力をもっとパッケージに生かしたいと考え、挑戦する企業や人たちもいるようだ。FP(ファンシーペーパー)のリーダーカンパニーである株式会社竹尾のWebサイトに「紙について話そう。」という対談が連載されている。そこに、「気包紙」といった不思議な言葉が表れる。
「気包紙」とは書いて字の如く、先に触れた"おひねり"に表れている「気持ちを伝える紙のパッケージ」ということであろう。ちなみに、その「気包紙」の表れるのは、デザイナーの工藤青石氏とアートディレクターの服部一成氏との対談である。雰囲気を伝えるために、少し抜粋して紹介する。
工藤:パッケージ用の紙って、強度や価格とかいろいろな制限があってあまり選べないんだよね。パッケージデザイナーからするとちょっとした憧れなんですよ、竹尾の紙は。だから風合いがある紙をつくりたくてね。パッケージに使える紙はツルッとした質感がほとんどだから。それと、例えばマーメイドであれば色の豊富さが特徴であるように、この紙では風合いにバリエーションを持たせたらどうだろうと考えた。ディープラフ、ミディアムラフ、ライトラフという3つの風合い。色はニュートラルな白のみ。それと僕がお願いしたのが価格をおさえること。どんなにいい紙でも高くて使われないと意味がないから......この紙、どうですか?
服部:これは......売れそうだね。
工藤:パッケージ用だけど、本とかに使ってもいいですよ(笑)
服部:印刷適性とかも、いろいろ試したんでしょう?
工藤:表面の仕上げは2種類ある。塗工したものと、非塗工のもの。非塗工のものに黒をのせると、染み込んでいるような深みのある黒になる。僕は染まっている紙に対して憧れがあってね。印刷されている色とは全然違うと思うし。だからこの紙では、印刷だけど染まっているような深みのある色が出るようにしたかった。
服部:何かベースにした紙はあるの?
工藤:イメージしたものはあるよ。もともと紙のイメージって、ふわぁっと柔らかそうで、そんなに白くもなく、ちょっとザラついているようなものだったと思う。パッケージの紙でも、そんな紙の原風景みたいなものがつくれないかなあと。
服部:今までなかったんだ、って思うね。ベーシックをつくったという感じ。
工藤:仕事をはじめた頃は、何でこういう紙がないのかなあって思っていたんだけど、そのうちないってことに慣れちゃってたんだよね。名前も考えました。気包紙っていうんだけど......どうですか(笑)
さて、何か感じることができたであろうか。繰り返すが、紙素材がすべてというのでもなければ、難しく考える必要もない。ごく自然に、自らもパッケージを使う身として、紙素材の良さや新しい使い方を考えて見たらどうだろう。それは結構おもしろいことでもあり、逆にプラスチックとの新たなコラボレーションが生まれるかもしれない。そんな可能性が、この対談から伝わってくるのである。
株式会社竹尾「紙について話そう。」 http://www.web-papers.net/taidan6-2.html