農研機構生研センター:イチゴの高品質輸送システム
2013.03.21
農研機構生研センターは、「イチゴの光学的品質評価技術と工学的物流技術を融合したロバスト流通システム」でのイチゴの高品質輸送システムの実現を可能にする個別包装容器を開発し、輸送試験や貯蔵試験を通して実用化の見通しが立ったことを発表した。
「イチゴの光学的品質評価技術と工学的物流技術を融合したロバスト流通システム」とは、宇都宮大学が中心となって実施している機械装置による自動収穫や品質評価、流通などの技術を体系化することを目的とした研究課題である。
開発した個別包装容器は、イチゴの表面がどこにも触れない状態で固定・包装できるものだ。
それにより輸送中の傷みを軽減することができ、イチゴの水分蒸散が抑制され、鮮度保持期間を大幅に延長できる。透明なプラスチック製のクラムシェルパッケージで、容器の一部でイチゴの果柄を把持することで、容器内で安定的に果実を固定することができるもの。1型と2型の2タイプがあり、1型は25g程度用で、2型は40g程度用の容器である。
5度の条件で貯蔵試験を実施し、収穫後10日目でイチゴの質量減少率を調査した結果、2段詰めされた慣行パックでは3.2〜15.7%であったのに対し、個別包装容器では1.2〜3.0%と質量減少抑制効果が高いことを確認している。
貯蔵後の慣行区では萎れや褐変などの変化が見られたが、個別容器区での外観変化は少ない状況だった。イチゴ出荷用段ボール箱にII型容器18個を収めた状態で、静岡県内の生産地から生研センターに宅配輸送した実験で、果実損傷が認められなかった割合は88%、軽度の損傷は12%で、慣行より少ない結果となった。
イチゴ出荷用段ボール箱にI型容器25個を収めた状態で、愛媛県内の農協が関西市場に向けて実施した販売試験では、99%は輸送による損傷が認められなかった。これにより、輸送が困難とされていた大粒のイチゴや柔らかいイチゴの流通に対して貢献することが期待される。
これを利用する場合は、イチゴを果柄付きで収穫する必要があり、収穫時期によって果柄の太さか異なるため、テープなどで上フタと下フタを止めるなどの工夫がいる。イチゴの品種によって果実形状が異なるため、収容できる果実サイズは異なる場合もある。イチゴの生産現場、流通、消費の各段階の関係者や容器製造企業と連携を進め2013年度の実用化を目指している。
日本のイチゴ栽培面積は6,470haだが、市場規模は2000億円にも達し食卓を彩る重要な果菜の一つとなる。近年では、各地で食味や粒の大きさなど多様な新品種が開発され活発な生産・普及の取り組みが進められている。主な産地としては、栃木県が全体の20%程度、福岡県・佐賀県・熊本県・長崎県がそれぞれ10%程度を占めている。遠距離輸送を強いられる場合もあり、12〜2月の冬期間でも5〜10%程度、3月以降の春期間では10〜15%もの流通ロスが発生しているとの報告もあり、産地からは損傷発生を軽減する流通技術の開発が強く求められてきたものだ。
(写真キャプション)
1)イチゴ用個別包装容器(素材:OPS二軸延伸ポリスチレン)
2)1型(左:幅50×高さ55×奥行45mm)と2型(右:幅60×高さ65×奥行55mm)
3)収穫と同時に容器に収容することもできる
4)容器は自立するため店頭でそのまま陳列もできる
詳細は下記のWebを参照ください。
(http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/press/laboratory/brain/046071.html)