日本水産:マダコの完全養殖の技術構築
2017.06.11
日本水産は、マダコの完全養殖の技術構築に成功した。2016年4月に当研究センターで孵化した成魚由来の卵が、2017年4月に孵化して数万尾のマダコ幼生が得られ、極めて困難とされるマダコの完全養殖に成功したものである。今後は、最終目標の天然資源に依存しない完全養殖マダコの安定供給体制の構築を目指す考えである。
タコ類は国内で年間7万?10万トンが流通しており、全量が天然の漁獲物で40?50%程度が国内産、残りを輸入品が占めている。タコ類は非常に身近な水産物だが、養殖の技術はまだ確立されていない。
天然のマダコは、卵から孵化した幼生が海中を浮遊したのち海底に定着し、成魚のマダコと同じ姿形の稚ダコに成長する。養殖する場合、浮遊幼生が着底できずに死滅してしまうことが多く、着底段階に到達した国内での成功例は数件が報告されているにすぎない。
浮遊幼生以降の育成の成功や完全養殖の技術構築にはまだ至っておらず、海外でも、完全養殖の成功例が2004年に一例のみの報告である。だが再現することは困難で、その後の進展はないようである。
ニッスイ中央研究所大分海洋研究センターでは、かねて親ダコから安定的に採卵する技術や孵化幼生を飼育する環境の適正化、稚ダコの飼育に適性のある餌料の開発を行ってきた。
2015年、少数ながらも稚ダコの人工種苗の生産に成功している。2016年4月に孵化した浮遊幼生数千尾のうち数十尾が、7月に稚ダコとなった。稚ダコの段階に入ると比較的安定して飼育でき、孵化から7ヵ月で1kgを超え、高成長性が確認された。孵化後9?11ヵ月で交尾や産卵する複数の個体が見られた。
完全養殖マダコの実用化技術を構築するには、浮遊幼生から稚ダコまでの間の生残性の向上や、稚ダコ初期の育成技術の向上などにも大きな課題が残されており、事業化にはまだ研究が必要である。
一方、今回の成功は、最も難関とされる浮遊幼生から稚ダコまでの飼育特性を把握することや短期間で完全養殖技術を構築し、またマダコの優れた養殖特性の一端を明らかにすることができ、完全養殖マダコの量産化に向けた大きな一歩である。