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キャベツや白菜、レタスなどの野菜に止まらず、イカやタコといった値ごろな水産品まで価格が急騰している。大阪辺りからは「お好み焼きのキャベツの量は減らせても、タコ焼きのタコの量は減らせない」といった嘆き節が、聞こえてきそうである。
財務省発表の品目別の貿易統計によれば、2025年1月のキャベツの輸入量は1万7,483トンに上り、2024年の同月(410トン)比で42.5倍に急増した。ひと月の輸入量として2008年以降では、天候不順の影響から生産量の大きく落ち込んだ2018年3月に次いで、2番目に大きな輸入量となる。
白菜やレタスなどの輸入量も増えており、白菜は2024年の1月にはほとんどなかった輸入が2025年1月には1,440トンとなり、レタスも2024年1月には1,126トンだった輸入量が、2025年1月には2,023トンと1.7倍に増えた。
農林水産省では、野菜の輸入量が増えた背景には、国内産地の夏が猛暑で冬が少雨であったことなどから、国産の生産量が減ったことの影響とみているようだが「夏の猛暑」といい「冬の少雨」といい、天候ばかりはわれわれの為すすべもない。
さすがに、急には使用量を減らせない業務用野菜では、国産と同量の輸入野菜が利用されているようである。その点、家庭用ならお好み焼きのキャベツを減らせばよく、またほかの野菜で代替するのもやぶさかではない。ただし、需給バランスから供給の不足となれば価格は上がるわけである。
昨年の夏頃から店頭の米が品薄となり、新米の採れる秋頃には落ち着くといわれた「令和の米騒動」だが、例年以上の採高であったにもかかわらず、以前品薄ぎみの価格は上昇中である。もはや需給バランスの問題ではないと、政府も慌てて備蓄米の市場放出を決めたが、果たして価格は下がるものか。
今回は専業農家の有坪民雄氏の著書「誰も農業を知らない2」(原書房)から、その一部を紹介する。著書のなかで有坪氏は「日本の農産物の価格は全くといっていいほど上がっておらず、主食の米に至っては30年前の半額程度」と記しているが、ならば現在の米の価格はようやく30年前に戻ったともいえる。
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少子高齢化によって日本の人口が減っていくことは、よく知られています。計算の仕方にもよりますが、2050年には日本の人口は1億人前後まで減ります。その後も減少は止まらず、2060年には9,000万人を割り込む見通しです。日本の人口のピークは2008年の1億2,800万人でした。
65歳以上の高齢者人口は2042年をピークに迎えたあと、数の上では減っていきますが、日本の全体人口も減っていくため、高齢者の比率は全体の4割程度で推移すると見られます。こうした人口減少がつづくと、30世紀には日本人はゼロになるそうですが、それまでにはまた増えることもあるでしょう。
とはいえ今後数十年は、間違いなく人口の減少はつづいていきます。なかでも、農業人口は尋常ではないスピードで減少をつづけています。終戦直後の1946年に農家人口調査が行われました。このとき得られたデータは、総農家戸数約569万戸、農家人口3,414万人、農業従事者数1,849万人(専業者1,447万人、兼業者402万人)でした。
当時の日本の人口は7,500万人くらいだったので、日本の人口の半分くらいが農家だったといってもいいでしょう。それが2020年農業センサスによると、農業従事者は152万人まで減少しました。2015年には197万7,000人でしたから、直近の5年間だけでも約46万人減少しています。
5年間で4人に1人が消えた計算です。農業従事者152万人のうち、農業を主業にしている「基幹的農業従事者」は136万人です。そのうち49歳以下は14万7,000人で全体の11%ほど。逆に65歳以上の高齢者は95万人ほどで全体の7割に達します。
農業人口が減ると何か起きるかというと、耕作放棄地がドンドン増えることになります。たとえると、1年間に100の仕事をする人たちに300の仕事をしてくれといってもできないので、200が耕作放棄されるということです。とはいえ、こうした流れに対抗するテクノロジーも発達しつつあります。
自動運転トラクターやドローンといったハイテク農機が2019年辺りに本格的に市販されるようになりました。この機会の進化を私は第二次農業革命と呼んでいますが、革命と呼ぶには理由があります。IoTを使ったハイテク農機は無人運転が可能で、1人で同時に何台もの農機を操作できるからです。
これまでの農機は田植え機にせよコンバインにせよ、操作するには1台につき1人以上のオペレーターが必要でした。実際は機械をフル稼働させるには1人で操作できる機会でも、2人以上必要なこともよくありました。たとえば田植え機は1人で操作できますが、苗がなくなると補充しないといけません。
1人で田植えをするとなると、苗がなくなれば取りに家に帰り、トラックに積み込んでもってきて田植え機に装てんする必要があります。この苗の運搬の手間はたいてい田植えする時間と同じくらいかかりますから、1人だと半日分しか田植え機を動かせないのです。
そのためフル稼働させるには田植え機を操作する人と、苗を運搬する人の2人が必要になります。しかし、無人運転が可能なハイテク田植え機なら、機械が無人で田植えをしてくれている間に、人が苗を補充するために動けるので、1人で2人分の仕事ができるわけです。
現状の機械の水準は、Windowsにたとえるとまだバージョン1.0段階です。まだまだ高価なだけで使い物にならないことも多いのですが、20年もすれば相当な威力を発揮してくれるところまで進化しているでしょう。そうした技術の支援を受けて、1人あたりの生産性は作物にもよるでしょうが、今の2倍、3倍程度は向上しているはずです。
しかし、それでも農業に従事する人が足りなくなるのではないかという懸念をもつ人が少なくありません。なぜなら、大規模化した農家も高齢化して後継者がいないことも多いからです。近年、集落営農と呼ばれる集落全体が1つの農家として経営されることが増えているのは、行政の後押しもありますが、なによりも後継者となる専業農家がいない。
いれも70歳を越えていて、いつまでできるか分からない。そんなわけで、地域の農地を任せられる専業農家があれば、任せてしまいたいが、そんな農家がいないから地域全体で営農せざるを得ないという事情があるからです。大規模農家のなかには、農業の生産性が上がっているのだから、農業人口が減るのは当然といってのける人もけっこうおられます。
こうした発言は、いっていること自体は正しいのですが、だから安心だといえないのは、前述の事情と、もう1つの危機をみていないからです。もう1つの危機とは、大規模農家は世間が思っているほど経営が盤石でないことです。
岩手県北上市に西部開発農産という会社があります。同社は1986年設立で、2015年時点での耕作面積は800ヘクタールにもおよぶ、日本最大級の農業法人です。同社は地域に点在する耕作放棄地や農業を辞める人の農地を借り受けることで規模を拡大し、米麦大豆、そばや野菜のほか、畜産も手掛けています。
大規模であるだけでなく、自社の製品を使ったネットショップや飲食店を経営し、味噌や素麺などもつくって販売し、六次産業化にも成功しました。さらにベトナムへ進出し、ベトナム産農産物も世界に輸出しようとしています。日本農業賞など、農業関係で表彰されることも多く、日本有数の成功した大規模農業法人だといえるでしょう。
同社ホームページによると、従業員数はすでに100名を越え、現在の経営規模は1,000ヘクタールを越えています。それはともかく、同社は当時から10億円ほどの収入がありましたが、そのうち47%が交付金となっています。この交付金とは、米の代わりの作物をつくったときに面積に応じて支払われるものです。
言い換えると同社の飛躍は、この交付金に依存しており、交付金なしには成り立たないといっていいでしょう。

有坪民雄(ありつぼ たみお)
1964年、兵庫県生まれ。香川大学経済学部経営学科を卒業後、船井総合研究所に勤務。1994年に退職、専業農家に転じ現在に至る。1.5haの農地で米、麦、野菜を栽培するほか、肉牛60頭を飼育。日本最初の新規就農マニュアルが農業書のデビュー作で、主な著書に「農業に転職する」「誰も農業を知らない1・2」「農業で儲けたいならこうしなさい!」「戦略の名著!最強43冊のエッセンス」(共著)などがある。